「…これが、ゲート…」
 ユーミルが呟いた。
 ゲートのあった部屋は、インフィニティアがあった部屋と同じ、神殿のような場所だった。
 その中央には大きな台座らしきものがあり、そこには光り輝く空間があった。
 「ああ…これがゲートだ。でも、本当に起動しているとは…ずっと動かなかったのに…」
 その横のビリーが光り輝く空間を見つめる。
 「ああ…じゃあ、覚悟はいいか?」
 ガルドがそう言って、ベーゼンドルファを歩き出させた。
 「行くしかないみたいだな」
 ヴェルフェラプターも歩き出す。
 インフィニティア、GT−ファイターもその後に続いた。
 そして4人は、光の中に消えてしまった。
 


 第16話 「蒼き巫女の帰還」

 
 そこは、先ほどと同じ神殿のような場所だった。 
 「ここが…エルスティアなのか?」
 ビリーが呟く。そこは、先ほどの場所と何も変わった様子が無いからだ。
 「外に出れば分かるさ」
 ガルドはそう言って、この部屋ただ一つの出口を開けた。
 そこには…
 「これは…」
 最初に飛び込んできたのは、緑だった。
 眼下に広がるのは、紛れも無い大森林だ。
 地球にはこんな広い森は、これほどの緑は恐らく残っていないだろう。
 「うわ…すごい…」
 ユーミルもその光景に目を奪われている。
 一行が立ち尽くしていると、その向こうからACらしきものが2機、やってくるのが見えた。
 「AC!?ガルド、あれは味方か?」
 ビリーがレーザーライフルを構えながら聞く。
 「ああ、味方だよ…ガイゲンヴェルクとカレアバーナ…ルークとイルムか」
 「ルークとイルム?」
 「俺と同じ、円卓の騎士の一員さ…」
 2機のACは一行の前に着地した。
 「ガルド!久し振りだな!」
 ガイゲンヴェルクに乗ったルークという男の方から、通信が入った。
 「ルーク、今帰った。イルムも元気だったか?」
 「……ええ」
 イルムの声は、まだ少女のものだった。
 ガイゲンヴェルクは中量2脚の灰色の機体。
 カレアバーナは真紅の重量2脚機体だった。
 「相変わらずだな、イルム!」
 「…それより、巫女はどうなったんだ?」
 「せかすなルーク。取り合えず、王宮へ行こうぜ。話はそれからだ」
 


 ガルドの言う「王宮」とは、本当におとぎ話の中に出てきそうな王宮そのものだった。
 中世のお城のようなものだ。
 一行はACから降りて、その前に立っていた。
 ルークという男の方は、20代後半の男。
 イルムの方は、まだ10代半ばの黒髪の少女。
 「さて…王宮に来たはいいが、まずは何処に行くんだ?」
 ガルドがルークの方を見て聞いた。
 「おいおい…俺に聞くなよ」
 「まずは陛下に謁見しましょう」
 イルムが無表情のまま答えた。
 「そうだな…ユーミル、リット、行くぞ!」
 ……返事はなかった。
 「いないぞ!?」
 ビリーも周りを見回すが、2人の姿は何処にも無い。
 「あの2人なら、着いた直後にどこかに行ってしまいました」
 イルムが淡々とそう言った。
 「……あいつら…」
 ガルドがどっと疲れていた。
 


 その頃2人は城下町を歩いていた。
 「姉ちゃん、大丈夫かよ…おっちゃん、滅茶苦茶怒ってそうだぞ」
 「へ〜きへ〜き!あ、あれなんだろ!行ってみよう、リット!」
 「しかも…なんか俺たち、やたらと目立ってるような…」
 リットの指摘は当たっていた。
 服装を見れば、無理は無い。
 周りを歩いている人たちの服は、中世の市民の服に近い。
 それに引き換えこの2人の服装は、非常に近代的だ。
 いくらACやMTが存在しているとはいえ、それ以外はほとんど中世の生活と変わりが無いのだ。
 目立つのは当然だろう。
 だがユーミルにそれを気付けというのはかなり無理があった。
 その時…
 「失礼ですが…あなたは、ユーミルという名前ではありませんか?」
 いきなり、1人の男がそう尋ねてきた。まだ若い男だ。
 ふちの広いとがった帽子、そしてくたびれたマント。手には竪琴など持っている。
 「うん、そうだよ」
 あっさり肯定するユーミル。
 「やはり、そうでしたか…」
 その男は1人でうなづいている。
 「おじさんは誰?」
 ユーミルの問いにその男は、
 「お兄さんはルカといって、吟遊詩人をしています」
 と、笑顔で(やや引きつった笑顔だが)答えた。
 「エルスティアの街は気にいりましたか?」
 「うん、気に入った♪」
 「そうでしょうね…私もこの街は好きですよ。あちこちを旅していても、帰ってくるところはここなんです。そうですね、せっかくですからこの街を案内して差し上げましょうか?」
 爽やかな笑顔でそう提案するルカ。それを見たリットは、こいつ、ナンパ師か?という考えが頭によぎっていた。
 「え、いいの〜?じゃ、案内して〜♪」
 しかしユーミルにそういう思考があるはずもなく、あっさりとルカの申し出を承諾する。
 「では、行きましょうか…蒼の巫女様」
 意味ありげに笑うルカだが、2人はそれには気付かなかった。
 


 
 「ここが星振る広場です。今から数百年前、ここに流れ星が落ちたという伝説があるのですよ」
 ルカがそう説明した。
 広場の中央には、大きな湖がある。
 「ふ〜ん…星振る広場かあ…」
 ユーミルがきょろきょろと広場を見渡す。
 湖のほとりは、たくさんの人で賑わっていた。
 「それ以来、星の夜にこの湖のほとりで願い事をすると、湖に落ちた流れ星がその人の願い事をかなえてくれる、という言い伝えが出来まして…願い事をしにくる人は結構いるみたいですよ。どうやら、特に若い女性の方に多いようですね」
 「そうなの?」
 「ええ。やはり女性の方が、ロマンチックといいますか…おおかた、恋の願いにやって来るのでしょうね。ここは、格好のデートスポットでもありますし」
 「ふ〜ん…恋かあ…」
 ぽつりと呟くユーミル。それを見たルカが笑いながら言った。
 「あなたには、心に決めた方がおありなのですか?」
 「う〜ん…ぜんぜん」
 あっさりと答えるユーミル。
 (うわ、ビリー、道は遠いぞ〜…)
 それを聞いてビリーに同情するリットだった。
 「そうですか、まあ焦って決めるものではないですからね。ゆっくりと考えるといいでしょう」
 ルカはそう言って、再び歩き出した。
 2人も慌てて後を追う。
 今までいた世界とは全く違う、安らかな雰囲気。
 普通にそのあたりに緑が存在しているだけでも、大きな違いだった。
 住んでいる人々も、町並みも、全てが違う。
 「さて、あそこに見えるのが時計塔です。もう100年以上も止まらずに時を刻んでいる…この街のシンボルですね」
 ルカが指差した先には、小さな塔があった。
 高さはせいぜい2,30メートルといったところだろう。
 2人がいた世界では、全然高くも何ともない、普通の建築物だが、周りの建物がせいぜい2階建ての住居なだけに、その時計塔は一際高く見えるのだった。
 「人々はあの時計等の刻む時の中で、ずっと生活してきた…街と共にあると言うわけです」
 時計塔の下は広場になっていた。
 「ここは、時計塔広場です。よく待ち合わせの場所などに使われています。ほら」
 ルカが指差した先には、1人の若い娘がいた。
 少しすると若者がその娘の所にやってくる。2人は連れ立って星振る広場の方に向かっていった。
 「アツアツだな〜」
 リットが呟いた。
 「あれ?なんだか、兵隊さんがいっぱいいるよ」
 ユーミルの視線の先には、10人ほどの兵隊がいた。
 しかも、こちらに向かってくる。
 「ああ、あれは多分あなたを探していたんですよ」
 笑顔のまま平然と言うルカ。
 「ふえ?なんで?」
 訳がわからないという顔のユーミル。
 「なんか悪いことしたっけ?」
 「もしかして、おっちゃんが?」
 リットがそう言ったときには、既に3人は兵隊に囲まれていた。
 「巫女様…すぐに、王宮にお戻りください。ガルド様もお待ちしております」
 兵隊の1人がそう言った。恐らく彼が隊長なのだろう。
 「ええ〜〜〜〜」
 思い切り不満そうな声を上げるユーミル。
 「姉ちゃん…」
 おいおい、という表情のリット。
 「いや、ええ〜〜〜…と言われましても…」
 思い切り困っている隊長。ちょっと哀れである。
 「だってまだ全部見てないのに…」
 まだ駄々をこねるユーミル。
 見かねたルカが間に入った。
 隊長に近寄り、何かを耳打ちする…
 隊長の顔色が変わった。
 「と言うわけで、私が街を案内し終わったらちゃんと王宮まで送り届けますので、ご心配なく」
 最後にそう言ってルカは隊長から離れる。
 「そうですか、分かりました。帰還するぞ!」
 兵隊たちはルカに一礼すると、来た時と同じように整列して戻っていく。
 「…あんた、知り合いなの?」
 リットがルカに尋ねる。さすがにルカが何者なのか怪しんでいるのだろう。
 「え、そうなの?」
 きょとんとした顔のユーミル。彼女にそういう理解を求める事が既に間違っている事をリットは知っているので、あえて無視する。
 「ああ、その事なら、すぐに分かりますよ。すぐにね…」
 一瞬だけいつもと違う顔になるルカだが、すぐにいつもの爽やかな笑顔に戻り、
 「さて、では観光に戻りましょうか」
 と、再び歩き出した。
 



 あとがき 第16話「蒼き巫女の帰還」
 前回戦闘ばっかりだった反動か、今回は戦闘シーンがありません。
 しかも、なんかファンタジーだし(爆)
 科学とファンタジーの融合を目指してたので、仕方ないと言えば仕方ないですが、ACらしさも所々に入れていきたいと思ってます…
 吟遊詩人のルカさん、果たして何者なんでしょうかねえ…