「インフィニティアが覚醒した…」
 「ゲートの鍵たるインフィニティアが覚醒した…」
 「何と忌まわしい事か…」
 「システム・ナインボールの再起動は近い」
 「よもやこちらの世界にも被害が及ぶかも知れぬ…」
 「しかしあの力さえ我等のものとなれば、それは並び立つ2つの世界の覇者と同義」
 「ビリーのいた支社の地下にゲートが残っている…」
 「邪魔は入らないのか?」
 「所詮奴らは我等の存在に行き当たっておらぬ…可能だ」
 「だが万一という事もある。インフィニティア、そしてユーミルは消しておくべきではないのか?奴は必ず我等に仇なす存在になる」
 暗い部屋の中。
 しわがれた老人たちの声だけが響き渡っている。
 浮かび上がるのは培養層を照らす明かり。
 その中には、人の脳髄が浮かんでいた。
 その部屋で唯一生身の存在である男が、口を開く。
 「インフィニティアは必要な存在だ。それに、消そうと思って消せるものではないだろう」
 その男は、まだ20代後半程の外見にも関わらず、その身に纏った雰囲気はそれ以上の重みを感じさせる。
 「これはおかしなことを言う。お主のエルディバイラスがあれば、いともたやすい事だろう」
 「だが、アルマに出撃させるのは問題があるな」
 「確かに」
 「制圧部隊を編成するのだ、アルマよ」
 「言われなくても、準備している。吉報を待っているがいい」
 そう言い残し、アルマと呼ばれた男はその部屋を出た。
 


 「ふ…脳髄だけになっても肥大したのは野心だけか」
 長い廊下を歩きながら、一人呟くアルマ。



 第15話「ゲート攻防戦」

 
 「何!?お前のいた支社の地下に完全なゲートがあるだと!?」
 ビリーの話を聞いて、ガルドが飲んでいたコーヒーを吹き出した。
 「ガルド〜…きたないよ」
 ユーミルがジト目でガルドを見ている。
 「あ、ああ…奴らが攻めて来た目的の中には、ゲートの奪取もあると思う」
 ビリーもそのコーヒーをよけながら、そう言った。
 「そういう事は早く言えよ…インフィニティアが覚醒したってことは、そのゲートが起動するかもしれないぞ…アルマゲイツの奴らがそれに気付いたら…いや、下手したら知っててゲートを確保したのかもしれねえな」
 「確かに…現社長のアルマはかなりの切れ者だからな」
 ガルドの意見にビリーも同意する。
 「……ん〜と…それで、どうするの?」
 ユーミルは相変わらず話についていっていない。
 「下手したら、ユーミルの生まれ故郷にアルマゲイツの部隊が攻め込むかもしれない、って事だよ」
 ビリーがそう説明すると、ユーミルはぽん、と手を叩き、
 「あ、そっかあ!………って……何よそれ……」
 わなわなと震え始める。
 「ビリーの会社壊しておいて、今度は別の世界まで占領しちゃおうって言うの!?許せない!」
 「姉ちゃん…単純…」
 リットの呟きはあえて無視である。
 「とにかく、俺たちも向こうの世界…エルスティアに行こうぜ。まずはそれからだ」
 ガルドがそう言って立ち上がる。
 「しかし、支社は既に本社の部隊が占拠しているぞ?」
 「ああ、敵の勢力は無人MT50体、ダイス15体。大した事はねえよ。リットのおかげでヴェルフェラプターの修理も終わったし、俺も封印してたベーゼンドルファーを使うからな」
 ベーゼンドルファーとは、ガルドが隠し持っていた真の搭乗機である。
 鈍い銀色の中にダークグリーンのラインが入った、中量2脚ACだ。その装備は、グレネードライフル、リニアランチャー、パルスキャノン、レーザーブレードである。
 円卓の騎士専用の機体らしい。
 「でも、リットはACが無いよ…どうするの?」
 ユーミルが指摘した。
 彼女にはインフィニティアという、強力無比なACがある。ベーゼンドルファーも円卓の騎士専用機だけあって、その性能はインフィニティアには及ばないまでもケイオス・マルスなどの比ではなかった。ビリーのヴェルフェラプターも、2機のように特殊な機体ではないにせよ、漆黒の刺客の乗機として充分な性能を秘めていた。
 だが、メカニックのリットにはACがない。
 「大丈夫だって。GT−ファイターがあるからさ」
 リットのいうGT−ファイターとは、彼が空中MTや戦闘機などをベースに開発した特殊な戦闘機だ。
 通常の戦闘機よりもかなり大きく、耐久力や武装も強化されているので、ACの支援を行うには充分な性能を持っていた。あまり使う事はなかったが…
 「GT−ファイターか。確かにあれなら何とかなるかもしれねえな」
 「だろ?おっちゃん」
 「よし、時間がねえ。全員出撃準備だ。敵部隊を蹴散らして、ゲートに突入、エルスティア王国に向かう!」
 「急がないと、アルマに先を越される」
 「よ〜し、しゅっぱ〜つ!」




 「……随分と暇だな」
 ダイスのパイロットがそうぼやいた。
 「おいおい、暇なほうが楽でいいじゃないか」
 もう1人がそう返す。
 「でもよ、一体こんなとこ守って何しようってんだろうな」
 「そんな事、知ったことじゃないさ。どうせ俺たちが知ったって、ろくな事にならないしな」
 「そうかもな…ん?レーダーに反応!?」
 その時には、敵は既にダイスの目の前まで迫っていた。
 夜の闇の中、うっすらときらめく鈍い銀色。死の輝き。
 リニアキャノンを構えたままOBで突入してくるそのACは、ガルドのベーゼンドルファーだった。
 2体のダイスがマシンガンを構えた時には、既にリニアキャノンが放たれている。
 ダイスは至近距離でそれを喰らい、爆音とともに吹っ飛んだ。
 「敵襲!敵襲!」
 残ったダイスのパイロットが通信を入れる。だが、それが彼の最期の言葉になってしまった。
 虚空から放たれたツインレーザーキャノンがダイスを直撃し、一瞬で爆炎に包む。
 放ったのは、ビリーのヴェルフェラプターだ。
 「おっちゃん、ビリー、支社までの直線距離14000!その間の敵はダイス5機、MT22機!」
 上空から2人に向けて通信が入る。リットのGT−ファイターだ。
 「OK、リット。上空からの援護を頼むぜ」
 ガルドがそう言って、ベーゼンドルファーを突っ込ませた。
 パルスキャノンが次々とMTを落としていく。
 ビリーのヴェルフェラプターも負けじと、レーザーライフルでMTを鉄屑へと変えていった。
 「おいおい…援護なんて、いらないんじゃん…」
 リットがぼやく。
 そのGT−ファイターの横を、MTの放ったマイクロミサイルがかすめていく。
 「うわっ!…あっぶねー…」
 デコイを射出し、第2波を回避するリット。
 「リット、大丈夫?」
 第3波は無かった。GT−ファイターを襲っていたMTは既にインフィニティアのポジトロンライフルにより全てが消滅している。
 「あ、姉ちゃん。余計な事すんなよな〜、せっかくGT−ファイターの性能試そうと思ったのによ」
 「ふ〜ん…じゃあ、勝手にすれば?」
 ダイスが1機迫ってきたが、ユーミルはそれを無視して先行した2機を追って行く。
 取り残されたダイスは、リットのGT−ファイターにマシンガンを撃って来た。
 「な、なんだよ!」
 そういいながらも、何とかかわすリット。少し被弾したが、問題ない程度だ。
 やはり戦闘機だけあってその機動性はACの比ではない。
 少なくとも、量産型ACなどではその機動性についていけるはずも無い。
 「おかえしだ!」
 両翼からミサイルが放たれる。
 それはダイスに直撃するが、やはりACのミサイルと比べると威力は低い。倒すまでには至らなかった。
 ダイスも反撃とばかりにロケットを撃ってくる。
 だが、マシンガンで捕らえきれないものを、ロケットで落とせるわけが無い。
 何発かロケットを撃つが、GT−ファイターにはかすりもしなかった。
 「とどめだっ!」
 GT−ファイターが機体下部のレーザーキャノンを放つ。
 だが、それより早くインフィニティアから放たれたポジトロンライフルによって、ダイスは爆発、炎上した。
 「……おい姉ちゃん…」
 ジト目でインフィニティアを見るリット。
 「もたもたしてるからでしょ!急いでるんだからね!」
 それを無視し(見えていないので当然だが)ユーミルは機体を転進させた。
 「ほら、もう2人は支社に着いてるんだからね!」
 「わかったよ…たく…」
 (…リットにまで人殺しをさせる必要なんて、ないもんね…)
 ユーミルは心の中で、そっとつぶやいた。



 
 3機のAC、そしてGTーファイターは支社の前に到達していた。
 「そこのACガレージからACごと中に入れる。そこに、地下に続くエレベーターがあるから、そこからゲートまで行こう」
 ビリーのヴェルフェラプターが先導する。その後に、インフィニティア、ベーゼンドルファ、そしてGT−ファイターが続いた。
 戦闘機でありながら、GT−ファイターは空中静止が可能なのだ。
 ガレージの中には、ACは無い。
 「そこのエレベーターだ。…ん!?」
 ビリーが敵の反応に気付く。次の瞬間には、全員が気付いていた。
 「おっと、そこまでだぜ…」
 いつの間にかガレージの入口に、1体のACがいた。
 「お前は…レイシス!?」
 「覚えていたか…この前の借り、返させてもらうぜ…」
 そこにいたのは4脚AC、シューティングスター。
 以前アリーナでビリーのファルノートに敗退したレイヴンだ。
 「こいつは時間稼ぎだな…ユーミル、ガルド、リット…先に行け!」
 ビリーがそう言って戦闘態勢を取った。
 「ビ、ビリー?なにそれ…かっこつけないでよ!」
 ユーミルが慌てて、インフィニティアをヴェルフェラプターの横に並べさせる。
 屋内とはいえ、数十機ものACを収容可能なガレージだ。充分機動戦闘が可能なスペースはあった。
 「いいから行ってくれ、ユーミル!大丈夫、こいつなんかにやられはしない!すぐに片付けて追いつく、それにそのエレベーターじゃ一度に3機はどうせ乗れないんだ!だから…!」
 なおも何か言いかけたビリーを遮ったのはガルドだった。
 「うるせえ…お前より、俺のほうが早く方をつけられる。ここに残るのは俺でいい…」
 「しかし…」
 「青二才が遠慮なんてするんじゃねえ!行けって行ったら行きやがれ!」
 「…わかった。急げよ。……行こう、ユーミル、リット」
 「え、でもビリー……うん、わかった」
 ヴェルフェラプターとインフィニティア、そしてGT−ファイターがエレベーターに向かう。
 「行かせるか!」
 シューティングスターが3人にマシンガンを放つが、それはベーゼンドルファの身体に遮られた。
 乾いた音を立ててマシンガンの弾丸が床に落ちる。
 だがべーゼンドルファの装甲には傷一つついていない。
 「な…そんなバカな!?」
 「死にたくないなら失せろ。邪魔をするなら殺すぜ」
 ガルドは静かにそう言った。
 「う…うおおおおお!」
 シューティングスターからロケットが放たれる。
 ガルドはそれを機体を横に滑らせてよけ、グレネードライフルを放った。
 直撃。後ろに吹っ飛ばされるシューティングスター。
 何とか機体を立て直した時には、既にベーゼンドルファは目の前だった。
 ブレードを振るおうとするが、すぐに腕は切り落とされてしまう。
 「終わりだ!」
 ベーゼンドルファがリニアキャノンを展開し、シューティングスターに押し付けた。
 零距離射撃によって、シューティングスターは爆発、跡形もなく消え去ってしまった。
 「捨て駒とはいえ…さすがにやるじゃないさ」
 それと同時に、新たなACが出現する。
 「新手か…悪いがすぐに追いつかなきゃならねえんでな、さっさと片付けさせてもらうぜ」
 そのACは軽量2脚で、武器はバズーカとブレードのみ。
 「さっさと片付ける?やってみなよ!」
 声は女だった。
 「アリーナ3位、リール…搭乗ACはハーディ・ハーディか…」
 「コズミックゼウスではないようだね。まあいい。どんなACに乗ろうと、結果は同じだ!」
 「どうだかな!」
 先に動いたのはリールだ。
 天井近くまで一瞬で飛び上がり、ベーゼンドルファの頭上からバズーカを放つ。
 「頭を取るか…だが!」
 ベーゼンドルファはハーディ・ハーディの下をくぐり、後ろを取った。
 「逃がしやしないよ!」
 だが、軽量級のハーディ・ハーディは難なくベーゼンドルファの動きを抑える。
 (空中にずっといられるわけが無い…降りてきた時が最後だ)
 だが、ガルドの思惑は外れた。
 ハーディ・ハーディはベーゼンドルファを踏み台にし、一瞬後には空中に戻っている。
 「エネルギーがそんなに多いわけは…強化人間か!」
 ガルドがそれに気付いた。
 「気づいた所でどうにもなりゃしないよ!」
 再び頭上からのバズーカ攻撃が浴びせられる。
 機体を滑らせ、かわすガルド。だが、それでもかわしきれない。3発に1発は当たっている。
 「しつこい女は趣味じゃねえんだよ!」
 ガルドはベーゼンドルファを浮上させた。
 一気にハーディ・ハーディに肉迫する。
 「来ると思ったよ!喰らいな!」
 だがリールはそれを待っていたかのごとく、すかさずベーゼンドルファにブレードを見舞った。
 「ちっ!」
 とっさに回避行動を取るガルドだが、空中では機体の切り返しが遅い。かわしきれなかった。
 レーザーブレードがコアを浅く切り裂く。
 「一瞬遅かったらやばかったな…」
 「まぐれは続かない、次で終わりさっ!」
 リールは間髪いれず、再び空中でブレード攻撃を仕掛けてきた。
 「そうはいかねえな!」
 ガルドはそれより早く、ベーゼンドルファをハーディ・ハーディに体当たりさせる。
 「何っ!」
 ハーディ・ハーディはベーゼンドルファと壁の間に挟まれた。
 「終わりだぜ」
 先ほどと同じように、リニアキャノンをハーディ・ハーディに押し付ける。
 だが。
 「久し振りだな、ガルド」
 いつの間にか。
 リニアキャノンの砲身の先に、1人の男が立っていた。
 「……アルマ……っ!?」
 驚愕するガルド。
 リニアキャノンの砲身の先にいつの間にか立っている事に、驚いたのではない。
 彼が直接来た事に、驚いているのだ。
 もっとも、前者もすでに常識を外れているが。
 「な……社長……?」
 現にリールは、雇い主のいきなりの生身での登場に驚愕して言葉も出ないようだ。
 茶色のコートを着た、長い白髪の男が生身で。
 「相変わらずのようだな…ガルド」
 「アルマ…まさかお前がいきなり来るとはな…」
 「仕方ないだろう?」
 アルマが、冷たい目でガルドを見据える。
 「……考えも変わっていないようだな」
 「まあな」
 ガルドがそう答えた、次の瞬間。
 アルマが砲身を蹴り、跳び上がった。
 「くそっ!」
 ガルドはすかさず機体をハーディ・ハーディから離す。
 「何処へ行きやがった!」
 アルマの姿は見えない。
 「……そこか!」
 レーダーで分かるわけは無い。だが、ガルドには分かった。
 ベーゼンドルファの前方に、アルマが立っている。
 「悪いが…お前たちをエルスティアに行かせる訳にはいかんのだよ」
 「……ヤロオ…インフィニティアが覚醒したって事は、やつらの復活が近いって事だろうが!もうディソーダーは再びエルスティアを襲ってるかもしれないんだぞ!」
 「それがどうした。奴らに生きる権利など無い」
 アルマの全身から何かが放たれ始める。
 リールにはそれを見ることが出来なかったが、ガルドにははっきりと見えた。
 アルマから立ち上るオーラが。
 「悪いが…行かせてもらうぜ!」
 ベーゼンドルファはOBを起動した。
 一気にアルマの横をすり抜け、エレベーターへと向かう。
 そしてエレベーターまで辿り着くと、振り向き様にリニアキャノンを放った。
 天井に向けてである。
 激しい爆発とともに、既に一部が破壊されていた天井が爆発した。
 落ちてきた瓦礫の山が、ベーゼンドルファとアルマの間に降り注ぐ。
 「…さすがに生身でベーゼンドルファ相手では分が悪いか……」
 そう呟き、身を翻すアルマ。
 やがて瓦礫で、2人の間は完全に閉ざされてしまった。
 



 
 後書き 第15話「ゲート攻防戦」
 ………予想外に長くなってしまった…
 しかも、もはや世界観は風前の灯だし……
 なんか、やたらとガルドが活躍してるような気が(笑)
 いい加減AC小説っての外さないと、詐欺って言われそうだ(お