「これが今回の依頼を受けたレイヴン達か?」
 アルマが秘書に確認する。
 「はい。ハーネスト社が制圧している北極圏のゲートを奪取するには、これで充分かと」
 その場にいるレイヴンは4人だった。
 1人は、リールである。
 残る4人は…
 赤毛のショートカットの、グリュックという男。
 金髪のショートヘアでサングラスをかけた雑賀(さいが)という女。
 この2人は大体20代半ばと言った所だろうか…
 そして、身長2メートル近いのではないかという巨漢が1人。名前はドルーヴァだ。
 「腕は確かなのか?」
 「はい」
 アルマの問いに、これまた秘書が答えた。
 「しかし…手間を取らせてくれる…ガルドめ…」
 アルマは1人呟いた。
 支社地下のゲートは、エルスティア側から封印されてしまった為に使用できなくなってしまったのだ。
 「よし…これから作戦内容を説明する」
 秘書が4人のレイヴンにそう言った。しかし、その時である。
 ぴー、ぴーという音と共に通信が入った。
 『敵襲!敵襲!』
 「何!?この本社にか!?」
 秘書が驚愕する。リールが立ち上がった。
 だが、アルマ、そして残る3人のレイヴンは冷静なままだ。
 『敵はACとMTの混成部隊!ACは5、MTは20程度と推測される!』
 「その程度の戦力で本社に攻め込んでくるとは…妙だな…」
 アルマが小さく呟いた。
 『敵は市街地に展開、本社を取り囲んでいます!迎撃システム作動中、当方の無人MTは損耗率50%!どうやら、敵に強力なACがいる模様です!ダイス部隊、展開させます!』
 通信の報告を遮って、アルマが言った。
 「市街地戦か。ダイス部隊の出撃は待て。住民の避難を急がせろ。……ここは君達に出撃してもらいたい」
 いきなりそう言われ、ドルーヴァが片方の眉を吊り上げる。
 「その依頼は受けていないぞ…」
 「まあ、いいでしょ」
 そう言って立ち上がったのは、雑賀だった。
 「当然こっちは別料金…OK?」
 アルマは口元に笑みを浮かべながらうなづいた。
 「なるほどな…大企業の社長にしてはちっとは考えてやがんな」
 グリュックも立ち上がった。
 「相手に強力なレイヴンがいる以上、下手にダイスなんか出してもかえって市街地の被害が広がるだけ…少数精鋭の部隊の方が効果的、ってわけだ」
 (市街地の被害を気にするとは…市民の人気を得たいのか、本当に無駄な犠牲を出したくないのかのどっちかだがな…)
 「そういうことだ。朗報を期待している」
 アルマはそう言って部屋を出て行った。
 (ついでに俺たちの実力も確かめる、ってわけだ…噂どおり食えない男らしいな)
 「あんた、何ぼさっとしてんの?」
 思案にふけっていたグリュックに声がかかる。雑賀だ。
 リールとドルーヴァは既に部屋を出たようだ。
 「ああ、今行く」
 グリュックも歩き出した。
 周りに目には、彼はどうもいつも昼行灯でやる気が無さそうに見えているらしい。
 


 第17話「失った大切なモノ」
 

 
 「こちらリール!ハーディ・ハーディ、出るっ!」
 軽量2脚、ブレードとバズーカだけという機体が飛び出していく。
 次に飛び出していったのは、ドルーヴァの重戦車AC、マッドドッグだ。
 「ドルーヴァ…マッドドッグ、出るぞ」
 「あたしらも行くよ…こちら雑賀、哭死、行くよ!」
 彼女のAC哭死は、黒を基調とした、所々に入った青が映える中量2脚ACだ。武装はライフルと小型ミサイル、ブレードのみだが…
 「まあ、やってやるか…グリュック、グリュックス・ゲッティン出るぞ!」
 グリュックス・ゲッティンの方は逆間接機体だ。白と薄い青のカラーリング。スナイパーライフルとチェーンガン、小型ミサイル、シールドという珍しい機体構成である。
 しかも、ダミーまで搭載している。
 4機のACは市街地へと飛び出していった。
 『いいか、建物への被害は最小限に抑えてくれ!』
 先ほどの秘書から通信が入る。
 ハーネスト社の無人MTは両腕の機関銃で次々とビルを破壊している。
 「こいつら…市街地の破壊が目的なのか!?」
 リールが戸惑う。
 わざわざアルマゲイツ本社のすぐ傍の市街地を破壊している。
 「我々の仕事は敵の殲滅だ。仕事を果たせばそれでいいだろう」
 ドルーヴァのマッドドッグがシールドを展開しながら突き進む。
 だが、ACが現れたと言うのに、ハーネスト社の無人MTはまったく気にする様子もなく、市街地の破壊を続けている。
 ドルーヴァは両肩のガトリングガンで無人MTを撃破した。
 そのまま、次々と無人MTを落としていく…
 雑賀の哭死も、ブレードで無人MTを次々と切り裂いていく。
 「こいつら…あたし達を無視してる?」
 雑賀も敵の動きを不審に思った。こいつらは、一体…?
 「らしいな…どういうことだ?」
 グリュックもスナイパーライフルでMTを撃ち抜きながら、思考をめぐらせていた。
 「敵は片っ端から叩いていくしかないだろう!」 
 リールのハーディ・ハーディがブレードでMTを解体していく。バズーカは温存だ。
 「これは…本命が来たね!」
 雑賀がレーダーの反応を見てそう言った。
 哭死には長距離レーダーが装備されているのだ。
 「10時の方向、敵AC4、大型MT1!大物だよっ!」
 全機が一斉に警戒する。
 他の3人にも、すぐにその敵は目視できた。
 4機のACは皆純白で、同じ武装をしていた。
 その4機のACに守られるかのように、中央に大きなMTがいる。
 ACと同じく純白で、ACの3倍はある大きさだ。
 その背面のブースターはまるで天使の羽根を思わせるような散り方である。
 「おいおい…何だありゃ…」
 グリュックが呟いた。さしもの歴戦のレイヴン達も驚きを隠せない。
 4機の白いACも、MTも静止したまま動かない。
 「やれやれ…どうする?」
 雑賀が、皆を見回すかのようにそう聞いた。
 逃げるか、戦うかと言う事である。
 「敵は、全て撃破する」
 ドルーヴァがそう言って腕のハンドロケットを構えた。
 「この前ミスったのに、ここでミスったら信用問題だ!やるに決まっている」
 リールもバズーカを構える。
 「厄介だが…逃げた所で、逃げられるかは謎だからな…」
 グリュックもスナイパーライフルを構えた。
 「じゃあ…行くとしますか?」
 いつの間にかリーダー格になりつつある雑賀も、ライフルを構えた。
 「やるならまずはACを撃破だ。1人1機撃破するぜ…」
 グリュックはそう言ってゆっくりと歩き出した。
 「MTは後回しだ…人数が足りない以上仕方ねえ」
 「ふむ…久々に血が騒ぐな…」
 ドルーヴァもゆっくりと前進していく。
 「ガルドよりはマシな相手か…」
 リールが温存していたバズーカを放つ。
 「よし、散開するよっ!」
 雑賀のその言葉と共に、4機は一斉に高速機動をはじめた。
 同時に4機の白いACも動き出す。
 まるで、作戦を立てるのを待っていたかのようである。
 しかも、MTは動こうとしない。
 「舐めるなあっ!」
 リールのハーディ・ハーディが空中に舞い上がり、白いACに向けてバズーカを放つ。
 白いACは上からの攻撃が見えているかのような動きで、それをかわしていった。
 「何…!?」
 白いACがビームマシンガンで反撃してくる。
 空中にいては切り返しが遅く、回避しきれないと思ったリールは地上に降りた。ビルを盾にし、ゆっくりと間合いを覗う。
 敵はいきなり空中に飛び上がってきた。
 そのままビームマシンガンを浴びせてくる。
 「空中でビーム兵器…強化人間か!?」
 リールは機体を滑らせてほとんどを回避した。
 リールも、そしてドルーヴァも強化人間、その点では互角である。
 しかし、雑賀、グリュックは強化人間ではない。ハンデがあった。
 機体性能も、かなりの差がある。
 敵の武装はビームマシンガン、垂直打ち上げミサイル、パルスキャノン、ブレードである。
 「くそっ…この程度で!」
 リールは多少のダメージ覚悟で敵を追って空中に飛び上がった。
 バズーカを放ちながら敵に近づく。
 そしてそのまま、空中切りを叩き込んだ。
 だが…敵は、そのままブレードで反撃してきたのだ。
 「何っ!?効いてないのか!?」
 吹っ飛ばされるハーディ・ハーディ。
 一方、グリュックも苦戦を強いられていた。
 「こいつら…ダミーに反応しない!?どういう事だ…」
 グリュックス・ゲッティンに搭載されているダミーは自立行動可能なタイプの、ヴェルフェラプターが搭載していたものと同タイプである。それが、この白いACには全く通じないのだ。
 無人機か…とも思ったが、こんな動きができる無人機など見たことがない。
 敵のビームマシンガンをシールドを展開してダメージを最小限に防ぎ、しのいでいるがこのままでは危ない。死角に回り込み、スナイパーライフルで射撃を試みても回避されてしまう。
 「見えていないはずなのに、何故だ!?ちいっ!」
 すぐに敵の反撃がくる。
 垂直ミサイルを、無人MTの下に潜り込み、MTを盾にして回避した。
 「どうなってんだ…?」
 昼行灯そうな印象を受ける彼だが、その実かなりの策略家でもあった。
 敵の攻撃を回避しながら、彼の頭はめまぐるしく回転している。
 それは雑賀も同じだった。
 彼女の哭死の武装はライフルに12連小型ミサイル。火力では明らかに敵に分があった。
 しかし、機動力で勝っているかというとそうでもない。敵は、あれだけの重武装にもかかわらずかなりの機動力を見せていた。
 しかも、障害物を利用して死角に回り込み、ブレードで白兵戦に持ち込んだが、その攻撃もまるで後ろが見えているかのように回避されてしまったのだ。
 「これは、報酬の上乗せをたっぷりしてもらわないと…やってられないねえ…っ!」
 パルスキャノンが放たれる。
 左右に細かく機体を揺らし、全てをぎりぎりで回避した。身体に衝撃がかかるがそれは無視だ。
 ドルーヴァも苦戦している。
 ハンドロケットはなかなか当てられず、両肩ガトリングガンも効果が薄い。
 攻撃を回避するのが難しいタンク型ACは、徐々に機体の損傷が大きくなっていっていた。
 「むう…やりおる…!」
 



 「現状、4機とも苦戦しています…」
 「敵の識別は出来たか?」
 「まだです。ですが、ハーネスト社の機体でないことは確かです」
 社長室。
 アルマと秘書がそこにいた。
 「……あの白い4機のACは…さしずめ四方を司るケルブと言った所か…そしてあの中央のMT…」
 アルマが呟く。
 「老人たちの差し金でしょうか?」
 秘書が尋ねた。
 まだ若い、青年だ。
 「それはないだろう。彼らの世界は所詮あの部屋の中だけだ。何も出来やしない…ならば、あれに乗っているのは誰だ…?」
 アルマが目を閉じ、意識を集中した。
 彼の脳裏に、一瞬ピジョンが映る。
 映ったのはまだ10歳くらいの少年だった。だが…
 「この少年……なんだ?この強烈な邪気は…」
 アルマは目を開け、モニターに映る白いMTを凝視した。
 あの中にいるのは、まだ10歳くらいの少年なのだ。
 強烈な邪気を纏った、少年。
 「……しかしあの邪気…どこかで……」
 そう言ってアルマは、身を翻した。
 「社長!」
 「私もエルディバイラスで出る。あの少年は…危険だ」
 


 「どうなってるんだ…街に中で戦闘なんて!」
 市街地を走る、2人の人影があった。
 童顔で身長が低めの少年と、彼に手を引かれて走る少女。
 既に大半の市民は避難しているが、逃げ遅れてしまったのである。
 無人MTの攻撃によってビルのガラスが割れ、2人の上に降り注ぐ。
 「きゃああっ!」
 悲鳴を上げる少女、少年はとっさに少女を庇う…
 だが、落ちて来るべきガラスの破片はいつまでたっても2人を襲う事はなかった。
 「え…」
 少年が上を見上げる。
 そこには、黒と青のACが腕を伸ばし、ガラスから自分達を守ってくれている光景があった。
 『何してんだい、今のうちに早く逃げなっ!』
 そのACから聞こえてきた声は、まだ若い女の声だった。
 「は…はい!」
 少年は我に帰り、再び少女の手を引いて走り出す。
 だが次の瞬間、その黒いACは白いACによって吹っ飛ばされた。
 『ちいっ!』
 黒いACは何とか体勢を立て直し、ライフルで白いACを撃ちながら距離を取る。
 ここから引き離すつもりなのだろう。
 「フォルス…」
 少女が少年の名を呼んだ。
 「大丈夫だよ、トリシア…急ごう」
 だが、その時。
 白いACが2人の目の前に立ちはだかった。
 「な…」
 思わず立ち尽くすフォルス。
 その白いACは、はるか頭上から恐怖に立ち竦む2人を静かに見下ろした。
 純白の、天使を思わせるその外観も、2人にしてみれば死神以外の何者でもなかった。
 『な…お前の相手はこっちだよ!』
 黒いAC…哭死に乗った雑賀も、白いACが自分よりも民間人に興味を示した事に驚いた。
 12連小型ミサイルをロックするが…
 『あんな近くに人がいたんじゃ攻撃できない…』
 OBを吹かして、白いACに突撃した。
 『ビルとビルの間に入れっ!』
 立ち尽くしたままの2人に叫ぶ。
 取り合えずそこに入れば、ACには手を出せないだろう…ビルごと破壊しない限りは。
 だが…白いACはそれより早く2人にビームマシンガンを向けた。
 その銃口の闇を見たフォルスが思わず一歩後退する。
 だが、それだけだ。動けない。
 恐怖が身体を支配し、動く事が出来ないでいる。
 一瞬後にはその銃口からレーザービームが連射され、人間などコンマ秒で蒸発してしまうに違いない。
 『駄目か…っ!』
 雑賀は間に合いそうにない。
 そして、ビームマシンガンは発射され…
 どすん。
 フォルスは倒れこんでいた。
 自分は、ビルとビルの間にいた…
 トリシアに突き飛ばされて。
 いまだ道路に残っていたトリシアと目が合う。
 彼女はまっすぐにフォルスを見ていた…
 あなただけでも生きて。そう言わんばかりに。
 そして彼の目の前で、ビームの嵐が道路ごと、トリシアを飲み込んだ…
 「…………〜〜〜っっ!!」
 彼女の名を叫んでも、それは破壊の轟音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。




 「くっ……!」
 その光景は、哭死のコクピットからも見えた。
 わざわざ逃げ惑っている民間人を、戦闘中であるにも関わらず狙って殺す。
 その行為が、冷静な彼女を一気に怒らせた。
 「外道があっ!」
 叫びと共に、OBを吹かしたまま突撃し、ブレードでビームマシンガンを切り落とした。
 だが白いACは全くひるまず、すぐにブレードで反撃してくる。
 装甲板1枚でかわし、至近距離でライフルを連射する。だが白いACは全く応えない。
 しかし、次の瞬間…
 白いACは急に舞い上がり、MTの方へと戻っていった。
 他の3人と戦っていたACも、全てMTの方に戻っていく。
 「これは…本社からの増援?」
 雑賀が本社の方を見る。
 そこには、一機のACが佇んでいた。
 白を基調とした全身に、青と赤のラインが入っている。
 そのACの出現と同時に、4機の白いACはMTの元へ戻り、まるでMTを守るかのように整列した。
 それを見た雑賀はピンとくる。
 あのACは、大型MTに操られているのだと。
 「ちっ…そういう事かよ…」
 同じくグリュックも、その光景を見てその事実に思い至っていた。
 だが…本社から現れたあのACは何なのだ?
 この場の誰も、謎のACのパイロットが誰かと言う事は分からなかった。
 無理もない。
 まさか社長であるアルマがいきなり出撃したなど、想像できるわけがない。
 「貴様は何者だ?」
 謎のACのパイロットの声が響き渡る。
 その声を聞いた4人が驚いた。
 「な…」
 いや、リールを除く3人の驚愕の声が合わさった。
 リールは見ている。
 アルマが生身で、いつの間にかベーゼンドルファのリニアキャノンの先端に降り立っていた事を。
 それに比べれば驚く事ではない。
 「貴様は何者だと聞いているのだ…」
 そのAC…エルディバイラスはゆっくりと舞い上がった。
 しかしMTはその問いには答えず、まるで恐怖するかのようにACを率いて撤退していく。
 エルディバイラスは、追おうとしなかった。
 残る4機のACも、追おうにも追えない状態だ。
 「結局…何だったんだ?あいつは…」
 リールがそう言ったのに、グリュックが答える。
 「あの4機はでかいMTが操ってたんだよ…だから死角からの攻撃をよけたりなんて事が出来たわけだ…」
 だが、一度に4機のACを操作するなど、彼は聞いた事がなかった。
 



 その後のミーティングで、ハーネスト社のゲート奪取作戦は2日延期され、謎の白い大型MT及びACを<ケルブ>と呼称する事等が連絡された。
 しかし…
 雑賀は別の事を考えていた為、まるで上の空だった。
 (あの少年…どうしただろうねえ…)
 北極に行くまではまだ2日ある。
 (気になるしねえ…仕方ないか)
 気だるそうな話し方とは裏腹に、意外と面倒見がいいのが雑賀という人物だった。







 後書き 第17話「失った大切なモノ」
 さて、新キャラが大量に登場しています。
 フォルス、雑賀の製作者であるZさん、グリュックの製作者YuKさん、ありがとうございました〜
 なんか雑賀やグリュック、このまま第1部のレギュラー化しそうです(笑)
 そして、もしかしたら今までで一番暗い話かもしれませんね…ギャグがないし…
 ああ、ユーミルが出てないからギャグが無いのか…(納得笑)
 というか、こういう風に人が死ぬのって、初めてですね…
 そして世界観が若干戻ってきています。これも、ユーミル達が出てないからですね(爆)
 皆、普通のACに乗ってますしねえ…エルディバイラスは戦ってないし…
 さて、これからどうなる事やら…