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2009年11月26日

 ■ 英雄伝説 空の軌跡FC/SC[PSP]

タイトル:英雄伝説 空の軌跡FC、英雄伝説 空の軌跡SC
メーカー:日本ファルコム
ジャンル:RPG
発売日:2006年9月28日(FC) 2007年9月27日(SC) いずれもPSP版
ハード:PSP
一周クリアまでのプレイ時間:約40時間(FC) 約63時間(SC)

「えっ、あたし?」
 名指しされて少女は面食らった。前にもこんなことがあった。王国を揺るがすクーデターを止めるため、大作戦を展開しようとしていたあの時。あの時も、リーダーに指名されたのはこの少女だった。そして今と同じように、突然のことに驚きを隠せずにいたのである。
 少女は、能く人を視る。
 しかし、それは能く己を視ることとイコールではない。
 分かっていないのだ。自分が周りにどれほどの影響を与え、どれほどの力を、光を、振りまいてきたのかを。
「それぞれ因縁はあるけど、わたしたちはみんな、あなたの旅に付き合わされていたようなものよ」
 その光に救われて続けてきた女が一人、笑いながら言う。
「だから、リーダーはあなたに相応しいの」
 少女は仲間たちを見回した。誰一人として、異を唱える者はいなかった。
 誰もが知っていた。
 少女が何度も道を見失いかけ、絶望しかけてきたことを。
 そしてそのたび、前へと進む己の道を、暗闇の中に探り当ててきたことを。
 今、記憶の数々に思いを馳せれば、彼女の辿った道筋はまるで――青を貫く一条の白。
 目の醒めるかのように鮮やかな、空の軌跡。
 少女は照れくさそうに一つはにかみ、それから覚悟を決めた。
 彼女は見つめた。空の一点。長かったこの戦いに終止符を打つために。
「よぉぉぉぉぉおっし! みんな、いくわよ!!」

 とゆーわけで、感想第3弾は日本ファルコムのRPG、「英雄伝説 空の軌跡」です。
 まずは感想を述べる前に、いくつか注釈を。
 タイトルに「FC」「SC」とついておりますが、これは「ファーストチャプター」「セカンドチャプター」の略だそうです。2本のソフトに別れてはいるものの、ストーリーは完全に繋がっており、事実上1本のRPGと言って良いと思います。ディスク3枚組のうち、Disc1だけを独立したパッケージとして売り出したよーなもんだと思ってもらえれば。(SCはディスク2枚組なので。)
 それから、ゲーム中には数多くの独自用語が登場しますが、ここではあえて、一般的な呼び方で表現したいとおもいます。(例:「オーバルアーツ」→「魔法」、「クラフト」→「必殺技」など)

●ストーリーについて
 主人公の少女エステルと、義理の弟である相棒ヨシュアは、遊撃士の見習いです。
 遊撃士というのは、TRPGとかにありがちな「冒険者」「なんでも屋」みたいな仕事を、組織的にやっている職業です。元締めたる遊撃士ギルドが依頼を仲介してくれるわけですが、実際には仲介というより労働力派遣に近い形態みたいです。
 仕事の内容は危険な魔獣の退治から、護衛、貴重な薬草の採集、果ては逃げた猫の捜索まで様々。主人公たちは、新人遊撃士として、先輩に指導されながら、そうした仕事に勤しんでいました。
 ところが、その最中に、後の大事件の先触れとなる出来事に関わってしまいます。これは捨て置けない、と判断したギルドの指示を受けて調査のため旅だつ主人公。それを待ちかまえていたのは、地下に潜みつつ謎の計画を進める巨大な組織の影。あまりにも強大すぎる敵に、主人公たちはいかに立ち向かうのか!?

 という感じでどんどん大風呂敷を広げた結果、プレイ時間は合計で100時間超!! 別にやりこみとかせず、普通にクリアしてこれです。まさに超大作。DQ7もメじゃありません。

 基本的には主人公エステルの成長物語なのですが、その長大なストーリーの全体を貫くのは、潔いまでの王道展開の嵐。全編見え見えのベッタベタで、ベタ展開好きな俺にはたまりません。一例を挙げると、

問1:恋愛なんて気にしたこともない元気娘16歳。もちろん相棒のことは、弟としか見ていない。さて、これからどうなりますか。
答1:相棒が他の女の子とキスしかけたのがきっかけで、もやもやしている自分の気持ちに気づく。え? なんでキス未遂だったことにホッとしてんの? あれ!? 思い返せば今まであたしはなんつー恥ずかしいことを平然とー!!

問2:仕事上の先輩。仕事に厳しいうえに口が悪く、見習いである主人公たちのことをボロカスに言うけど正論だから反論できない。どうなりますか。
答2:けなげな少女12歳登場。先輩、最初はぶっきらぼうに足手まとい扱いしていたけど、本当は心配だっただけ。少女のけなげさにほだされて、すごい勢いで性格丸くなっていく先輩。気が付けば仲間からは年の差カップル扱い。

問3:ま、まま待ってくれ! すまなかった! このとおりだ! 頼む! 仲直りをしようじゃないか。さぁ、握手をしよう……
答3:ひっかかったな……バカめ! お前なんかこうだ! お前さえいなければ! チクショウ! 僕はエリートなんだぞ! コノ! コノォ! クソ! どうだ! ざまぁみろ! バーカ!
 ……ま、待て、話せば分かる!

 マジたまりません。

 それから面白いのは、敵も味方も、勢力がみんな組織として動いているというところ。敵が組織なのはよくある話ですが、味方側が大きな組織であり、主人公たちがそのコマの一つとして動いている、という描写はRPGではなかなか珍しいと思います。
 主人公たちに見えているところ以外でも、遊撃士ギルドに属する仲間たち(前にチラッと顔を合わせたことくらいはある人たち)が活躍して、重要な情報を掴んできたりだとか。逆に、主人公が掴んだ手掛かりがギルド全体に波及していったりとかね。
 世界を救うことすら飽くまでもお仕事としてやっている、というのも印象的。主人公は元気娘なので、最初は感情にまかせて突っ走ったりしてましたが、何度かの失敗を経て成長。徐々に根回し・下準備に気が回るようになっていきます。お仕事なので、勝算がない状況で突っこんだりはしません。特に終盤の緊迫した状況になるにつれて、きちんと作戦を立てて「まずいけるだろう」と思えるくらいになってから突入、という描写が増えていきます。

 まあ、ちょいとベタに過ぎるのと、台詞回しがいかにもアニメアニメしているというか、ぶっちゃけ敬語の使い方がひどすぎるので、そういうのが受け付けない人には厳しいかもしれません。「させていただく」の濫用とかが気にならない人なら大丈夫です。
 俺はすごく気になった方ですが、それより本筋のほうが楽しかったので我慢できた、という感じでした。

 というように全体には非常に好印象だったのですが、「SC」以降、ちょっと展開に息切れが目立つようにもなりました。
 具体的には、「次の街に到着→なんか事件が起きる→これは敵組織の陰謀に違いない!→やっぱそうでした→でも敵幹部が超強くてとてもかないませんでした」という展開が、5回連続で起こります。
 いわゆる「敵幹部の顔見せエピソード」なわけで、そいつらとはラストダンジョンで決着がつくことになるのですが……もーすこし、展開にバリエーションを持たせられなかったのか、と思います。
 しかも、この同じ展開5連続が終わると、もうSCも半分終了ですからね……ストーリー全体の1/3を占めているわけで、さすがにだれました。

 うん。今思い返してみても、話は間違いなくFCの方が面白かったな。主人公が自分の恋愛感情に気づいていく過程と、謎の組織の正体が徐々に暴かれていく過程が、うまいことリンクしてましたしね。FCのエンディングは、もう盛り上がり最高潮って感じでした。

●遊撃士クエストについて
 主人公は遊撃士ですので、そのお仕事(クエスト)をこなしていくことになります。

 仕事には、ストーリー本筋を先に進めるための「メインクエスト」と、本筋とは関係ない「サブクエスト」の二種があり、基本的には前者だけ進めていけばエンディングまで辿り着けます。もちろん、サブクエストをこなしていくと、報酬がもらえたり、ボーナスアイテムが手に入ったりするわけですが。

 俺がこのゲームで一番すばらしいと思ったのは、このサブクエストの作り込み具合。普通こういうサブイベントは、単に「モンスターを倒して終わり」「目的の品物を持ってきて終わり」という淡泊な構成になっているもんですが、そこは流石に作り込みのファルコム。全てのサブイベントに主人公たちと依頼主のかけあいがきちんと作られていて、ちゃんと連れて行くメンバーによって台詞も微妙に変化したりします。
 イースシリーズ同様、このゲームも街の一般人にまで名前がついているのですが、一度依頼主になった人が、その縁でふたたび依頼を持ってくることもしばしば。(というか、FCでの依頼主の多くが、SCで再登場します)で、前の依頼を受けたかどうか、そしてちゃんと解決したかどうかで、これまたミニイベントが変化していきます。
 オマケ要素をただのオマケ要素として手を抜くのではなく、きちんとキャラ描写のための種として作り込んでいる。この手の混み具合は、本当にすごいと思います。

●戦闘システム・成長システムについて
 戦闘システムは、FF10のアクティブタイムバトルに、碁盤目上のボードゲーム形式を組み合わせたような感じです。
 FF10をやったことのある人には分かりやすいと思うのですが、コマンド選択時に時間が止まるアクティブタイムバトルというか。FF10と全く同様に、画面横には敵味方まぜこぜで行動順がアイコン表示されております。基本的には、その順番を見ながら戦略を立てていくことになります。
 ちょっと特殊なのは、「行動順ボーナス」と「割り込み」の存在。戦闘中、行動順を示すアイコンの横に、ランダムでボーナスアイコンが発生します。このアイコンがついているキャラクターは、攻撃がクリティカルになったり、HPが回復したりと、色々な恩恵を受けられるのです。
 で、主人公たちは自分の行動順じゃないときでも、超必殺技で「割り込み」をかけることにより、無理矢理そこを自分の行動順にしてしまえます。これによって、クリティカルアイコンを敵に使われることを防いだり、ピンチになったとき即座に回復技を割り込ませたり、と戦術の幅が広がっています。

 わりと楽しい戦闘だったとは思いますが、バランス的には、ちょっと魔法が強すぎたかな? というか、範囲攻撃が便利すぎて、単体攻撃の必殺技とかを使う気になれません。もう少し前衛に火力があっても良かったような気がします。
(それでも超人ヨシュアくんは輝いてたけどね……)

 成長システムには、特に珍しい点はなし。ごく普通の、レベルアップ式です。検証したわけじゃないですが、たぶん育て方でステータスに差が出るようなこともないと思われます。

 魔法は「覚える」タイプではなく、FF7のマテリアに近い「装備する」タイプ。オーブメントと呼ばれる装置を1人1つずつ持っていて、そこに空いた6つのスロット(SCでは7つに増えます)に、クォーツと呼ばれる宝石をはめ込むことで、魔法が使えるようになります。
 このクォーツ、ステータスを上げる効果などもあるので、キャラクタータイプと使いたい魔法の兼ね合いで、どれを装備させるかかなり悩みます。その意味でもマテリアっぽいですね。
 で、面白いのはオーブメントに「ライン」が設定されていて、1つのラインに装備されたクォーツの属性値合計によって使える魔法が決まる、という点。魔法重視のキャラクターは全てのスロットが1つのラインで繋がれていて、全部のクォーツの属性値が合計されるため、強力な魔法を使いやすくなっています。逆に前衛系のキャラはラインが細かく枝分かれしているため、普通のやり方では上位の魔法は覚えられません。
 これによって、同じ魔法キャラでも、「こいつは魔法攻撃力高いけど魔法のバリエーション持たせにくい……」とか、「こいつは速さにまかせて支援魔法使わせたら天下一」とか、色々とキャラクタータイプに差が出てくるのです。

●総評
 プレイ時間はちょっと大変なことになりますが、それに見合うだけの楽しさはある良作です。ちょっと細かいシステム周りで不満点があるものの(ロード時間とか、戦闘のテンポが若干悪かったりとか)、それらを補って余りある魅力を、この作品は確実に持っています。
 ベタ展開好き、元気娘好き、思春期のラブ好き、細かいサブイベントをコツコツこなしていくの好き、緑川光好き、子安武人好き、そして全てのRPG好きに。間違いなくオススメです。

投稿者 darkcrow : 2009年11月26日 02:33

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