AC3 ANOTHER STORY


                  序章

 時は6XXX年。
 いや実際ここにいる奴らは、今がいつなんて正確な答えは知らないだろう。
 あえて知ってるといえばそう、『管理者』くらいなものだ。
 だがこの『管理者』という存在も正確ではない。実際いるのかさえも分からないのだ。大昔の例えでいえば、『神』のような存在だから。
 男なのか女なのか、人なのか化け物なのか、全てが謎。
 だが我々『レイヤー』の者たちは、この神のような存在を崇拝している。彼無しでは全てが成り立たないと考え信じているのだ。現に、彼の怒りに触れて生き残っているものはいない。
 そう、我々は支配されているのだ。
『管理者』という名の存在に。


 長年待ち続けたレイブン試験は、ついに残すところ二日を切った。
 愛機『モア・イリア・サン』を整備しながら、カスパーは興奮の唸り声を上げていた。
「くぅ〜〜、楽しみだ!」
 まだ十代後半ほどの若い青年だ。後ろの髪が首のあたりまで延びており、色はやや茶色と黒がまざったような色。目の色もいっしょだった。
 そんな青年が作業着を着て、手際よくACの整備する姿は、やや違和感がある。
 ちなみに、ここはカスパーがそこらの残骸で勝手に作ったACドック。この世界『レイヤー』はいたるところに空き地が存在しているので、土地はタダ。文句を言う奴はいないのだ。
 しかし、それなりに問題もある。レイヤーははっきりいって混沌の世界だ。うっかり市街地から離れた場所にいれば、ハインド(戦闘ヘリ)や、ACの流れ弾の的になる可能性が非常に高い。
 そして、この場所は市街地からはやや離れた場所にある。
 何度か危険な目にもあった。しかし、これでもカスパーはプロではないが、AC乗りだ。
 物資欲しさにたまにやってくる二流AC乗りぐらいなら、愛機の500発マシンガン・カスタムで蜂の巣にするぐらい雑作もない。たまに飛んでくる流れ弾も、斥力場シールドで守られたこのマイホームにはびくともしない。
 しっかりしている、と言っていいだろう。
 しかしこの生活もあと二日後になれば、一転して変わるかもしれない。レイブン試験に合格してレイブンになれば、グローバルコーテックスが保護してくれて、市街地のA区画にもただで住まわしてくれる。
 毎日毎日家のシールドの点検もしなくていいし、部品を手に入れに行くため100キロの距離を往復しなくてもいい。まさに夢のような生活が、レイブンにはある。
 あの目的も、たぶん果たせる。
 カスパーにとって、それが一番の目的なのだ。
「絶対、合格してやるぜ」
 整備用のスパナを持った右手を天に掲げ、カスパーは熱く意気込みを叫んだ。

                   *

 時はあっという間に流れて、レイブン試験……。
 マイホームから100キロほど進んだところに第二市街地「マイロス」がある。
 レイヤーの中には、人が多く集まる市街地と呼称する街がある。ちなみに全部で八つある。
 作ったのは『管理者』という、謎に満ちた奴だ。
 レイヤーはカスパーが生まれる大昔からこの管理者に管理されてきた、ということになっている。
 しかし管理といっても、実際なにをしてるのかはまったく不明なのだ。そもそもそんな奴がいるのかさえ、わからない。カスパー本人が知識不足なのも理由のひとつではあるが……。
 と、そんな事はどうでもいい。
 レイブン試験会場は、マイロスの中心に位置する所にある。カスパーはイリアを走らせながら、そこに向かった。
 試験会場に到着すると、すでに大勢のAC乗り達でごたついていた。
 とりあえず、カスパーは試験官に「試験希望者、カスパー・メルキオールです」と告げる。試験官は名簿を確認し「カスパーさんですね。ACをドックに置いて、向こうで待っていてください」と言った。
 ACを預け、試験官に促された場所に向かう。そこにはたくさんのAC乗りが集まっていた。
 屈強そうな男、気の強そうな女もいる。今にも倒れそうなガリガリの爺もいた。
 なんだかわくわくしてきた。
「退屈だけは、しそうにないな」
 と呟いたその時、誰かが背中にぶつかった。
 振り向くと、カスパーよりも縦横2倍くらい体格のある男が立っていた。
「邪魔だ! クソガキがぁ!」
 いきなり怒鳴られた。
「誰がクソガキだ! このデブ野郎!」
 男の理不尽な態度に、カスパーはかちんときたのか。食って掛かった。
 男は意外な反応を見せられたと思ったのか、ちょっと動揺した。だがすぐに脳に血をためはじめて、とても言葉では形容不可能な恐ろしい顔でカスパーを睨んだ。
「なんだこのガキ? ここは手前みたいな奴が来る所じゃねえぜ。分かってんのか」
「当たり前だろう。俺はレイブンになるんだ。あんたこそ場所間違えてんじゃないの? 製
肉場ならここから東に100mの所にあるぜ」
 相手の目をじっと睨みながら挑発する。
 男はこの一言に絶句した。全身がわなわなと震えだす。
「こ、このガキ! ……てめえ、名前は? それと機体名は?」
 急に冷静な態度で話だす。カスパーは? と言葉を脳裏に散りばめていた。
「……カスパー、カスパー・メルキオールだ。相棒は「モア・イリア・サン」だ」
 だがとりあえず名乗っておく。
「カスパー、よく機体を整備しとけよ。俺がその腐った自信を粉々にしてやる」
「あんたこそ、電装回路のチェックは念入りにしとけよ。途中で止まっても俺はあんたごと切り捨てるからな」
 不敵な笑みを浮かべながらいう。
 男はこ、こいつ……と唸っていたが、すぐにぶつぶつと何か呟きながら自身で沈静をはかり、ふんっと鼻をならしながら去っていった。
 カスパーはあれ? と声をあげる。いつのまにか、最初の刺々しい態度が無くなっていた。
 ……もしかしたら、良い奴なのかもしれない。
「そういえば、あんたの名前は〜!」
 あっと気づき、カスパーはすでに20mほど離れた位置にいる男に大声で訊いた。
 男は振り向き、ややため息まじりに答えた。
「……デュランだ。デュラン・マスター」
「デュランか……」カスパーは呟きながら頭に名前を刻んだ。
「いい勝負しようぜ!」
 手を高らかにあげ、カスパーは言った。デュランはそれを聞いて、ふっと微笑を浮かべ、
「ぶっ殺してやるからな」
 手を上げ、陽気にそう言ってくれた。