ARMORED CORE 2 EXCESS

 地球歴210年3月2日、午前8時13分
 
 ぴんぽぉん。
 玄関で鳴ったチャイムの音に、ウェインはキャベツを刻む手を止めた。
 今日の朝食はこんがり焼けたハムエッグ、キャベツとニンジンのサラダ、そしてトースト、コーヒー、オレンジジュース。ハムエッグもハーディとウェインには半熟、ユイリェンには両面焼いたカリカリのを用意する。ユイリェンのサラダはドレッシング少なめで、ハーディのコーヒーにはミルクを少々、オレンジジュースはみんな100%の顆粒入り。外はカリカリ中はふっくら、絶妙のトースト加減。
 食べ物にはみんなこだわりがあるし、好みも違う。できるだけそれには合わせたいという思いがあって、ウェインは加減の違う料理を同時にこなすのである。さすがに少しばかり大変だったが、それを趣味にできる彼は誰よりも幸せなのかもしれない。
 ――シュヴァルベ運輸です。お届け物にあがりました。
 宅配便とはめずらしい。時折弾薬や燃料を届けに来る業者はいるが、一般の宅配便で荷物が来るのはここに住み着いてから初めてのことである。ウェインはエプロンで濡れた手を拭きとると、キッチンを出て居間に向かった。
 居間にはまだ誰もいなかった。ハーディはまだガレージにいるのだろうし、ユイリェンは多分シャワーを浴びている最中である。
 テーブルの上のペンを拾い上げ、ウェインは玄関のドアを開けた。外のまぶしい光が目に入る。
「ユイリェン・タオ・スギヤマさんのお宅ですね?」
 ウェインが頷くと、宅配便業者は伝票を取り出した。そしてサインをお願いします、と付け加える。自分の名前を書き込みながら、ウェインは依頼主の名前に目を遣った。ケンジ・コバヤシ。あの若社長か。内容物は書類となっている。
 ではこちらを、と言いながら業者はボール箱を差し出した。一抱えほどの大きさの茶色い箱で、テープでしっかりと梱包してある。ウェインはそれを受け取るとその重さを確かめた。大きさの割には意外と重い。紙を詰め込んでいるせいだろうが。
 そのときふと箱の上に書き殴られた文字が目に入り――ウェインは思いっきり顔をしかめたのだった。
 
 冷たい感触が彼女を撫でる。無数の雫はぴたぴたと柔らかな白い肌に貼り付き、うなじから小さな胸の膨らみを伝い、腰の曲線を滑って脚から床へ落ちていく。その感触をどこか遠くに感じながら、ユイリェンはざあざあという音に耳を澄ましていた。
 ユイリェンは冷たいシャワーが好きである。仕事の後や起き抜けに、こうして水を浴びて火照った体を醒ましていく。その冷ややかさに触れるたび、彼女は快楽にも似た感情を得る。そしてその感情は奇妙なくらいさわやかに、風のように吹き抜けていくのだった。
 ――ユイリェン、宅配便。
 遠くで声が聞こえた。ウェインの声だが、どことなく不機嫌そうにも聞こえる。珍しいこともあるものである。いつもの朝は、実に楽しげに、鼻歌まで混ぜながら朝食を作る彼だというのに。
 シャワー水を止め、ユイリェンはタオルを手に取った。
 
「なに?」
 シャワールームから出てきたユイリェンは、白いタオルで髪についた水を丹念にふき取っている最中だった。綿の白いTシャツに、紺色の長いズボンというだけの軽装である。別段どうというところのない室内着だが、なんとなく正面から見るのがはばかられてウェインは視線をそらした。
「宅配便。若社長から」
 ぶっきらぼうにそう言うと、ウェインはボール箱をテーブルの上に乗せて、キッチンへと戻っていく。やはり機嫌が悪いようである。すれ違いざまに、ユイリェンは訝しげに問いかけた。
「……何を怒っているの?」
「べぇぇっつにぃ」
 この態度で「別に」なんて、説得力のないことを言わないでほしいものである。キッチンに戻る彼の背中を眺めながら、ユイリェンは軽く肩をすくめた。まあ、誰だって機嫌が悪い時くらいあるだろう。
 ぺたりぺたりとスリッパの音を響かせて、ユイリェンはテーブルの上の箱に歩み寄った。伝票には確かにケンジの名前が書いてある。中身は書類。
 と。その時、箱の上にでかでかと書かれたメッセージが目に入った。
『僕の愛しいユイリェンへ。君のケンジより』
 はあっ。ユイリェンは溜息をついた。これだからケンジには困るのである。荷物があるなら普通に送ればいいものを、こんな余計な付け足しをするからウェインの機嫌も悪くなるのだ。彼らしいといえば彼らしいが、いい加減うんざりしていることも事実である。
 ともかくテープをはぎ取って、ユイリェンは丁寧に箱を開いた。中に入っているのは啓蒙書や文庫本、TDと再生機、あとは両親の写真が入った写真立てくらいのものである。どれも見覚えがあるものばかり。会社を飛び出したときに、自分の部屋に置きっぱなしにしていた小物類だ。
 今更こんなものを送りつけてきたということは――彼女の部屋を片づけてしまったということなのだろう。つまりこれは、もう二度と会社には戻らせない、というケンジの意思表示でもあったのだ。
 しかし、だからといって特別な感慨も湧いては来なかった。そんなことはとうの昔に覚悟していたし、何より彼女自身、社に戻るつもりは毛頭なかったのである。TDの中身は時代遅れの曲ばかりだし、物心つく前に死んだ両親の写真にいたってはなんの思い出もありはしない。
「あら」
 ユイリェンは小さく声をあげた。目に止まったのは一冊の古い文庫本――とある長編小説だった。紙も黄色く変色して、ページも半分破れかけ、ところどころ印字も霞んでいるそれの表紙には、大きな文字でこう穿たれていた。

HOP XX White Wing Chariots

白い翼の騎馬

 地球歴139年8月25日、午後2時35分
 
「きゃあぁぁぁぁぁ〜っ!」
 甲高い声は、悲鳴――ではなかった。
 ぞわぞわとした気色悪い――そしてある意味では気持ちいい――感触が背筋の内側、脊髄をなで回していく。下腹からうなじにかけて、ぞくぞくと震えが駆け抜けた。不思議な話だった。それは明らかに恐怖だったのに、ある種性感にも近しい快感が同時にあるのである。
 自由落下特有の感触だった。
 自分の載っている機体が高空から落下していく。空気抵抗と重力がつり合い、彼女の体には何の力も働かなくなる。ふわりと体が浮いた。その瞬間またしてもぞくんとパルスが体を駆ける。もう限界だった。体を刺激する快感に耐えきれず、少女は口を開いて思いっきり喘ぎ声をあげた。
「いぃやっほぉぉぉぉぉぉっ!」
 ひとしきり歓声をあげると、少女は前の席の男に抱きついた。彼はこんなにガクガク揺れる機体の中にあっても、いつものにこやかな笑みを顔に張り付けたまま、悠然とコックピットのシートに腰を落ち着けているのである。彼に触れると安心できる。命綱も何もないスカイダイビングだが、彼にしがみついてその暖かさを感じている間は心が安らぐのである。
「しっかりつかまっていてくださいね、お嬢様」
 彼は優しく囁いた。
「次は少し揺れます」
 な、に、が、す、こ、し、だ! 少女はよっぽど叫んでやろうかとも思ったが、こんな状況では舌を噛んでしまいそうである。これほどの揺れを意にも介さない彼が「少し」揺れるというのだから、一体どれほど激しい揺れなのか――少女はごくりと唾を飲み込んだ。どきどきする。彼に抱きつく腕に力を込め、その背に自分の胸を押しつける。伝わるだろうか、このどきどきが。
 ぴーっ。警告音が鳴る。げっ、と少女は心の中で声をあげた。計器がレッドランプを灯している。彼女たちが載る青黒い二足AC――「月影」という格好いい名前がついている――は、いつのまにやら危険高度まで下降してしまっていたのである。
 何やってるの! 声は声にならなかった。早くブースター噴かして! このままじゃ墜落しちゃう!
「あ」
 彼は思いだしたように――まるで買い忘れた夕飯の材料を思い出したかのように――間の抜けた声をあげた。
「ブースター動かないや」
「いぃやああああぁぁぁぁっ!!」
 今度こそ、少女の声は悲鳴になった。
 冗談じゃない! ちょっとしたスリルが欲しかっただけなのに、こんなところで墜落死するなんて! 墜落まであと50m。機体は止まらない。あと30。地面はぐんぐん近づいてくる。あと20。顔から血の気が失せていく。あと10、9、8、7、6、5!
 がくんっ!
 突然の衝撃が機体を震わせた。体が引き裂かれてバラバラになってしまいそうだ。少女は腕の感触を確かめた。そこから伝わってくる彼の体温を信じて、必死にしがみついた。
 それは一瞬だったのだろうか、それとも。ただ気が付いたときには、二人の乗るACはゆったりとブースターを噴かし、地面すれすれを平行に飛行していた。
 少女はほっと安堵の溜息を吐いた。なんて意地悪。彼は全部わかっていてやったのだ。自分の操縦技術、機体の性能、それによって導き出される限界高度。一体どこまでが安全なのかをしっかり理解したうえで、彼女にスリルを与えていたのだ。
 やっぱり意地悪。
「とまあ、こんな感じです」
 のほほんとした彼の口調に、少女は顔を持ち上げ、にやっと口の端を吊り上げて見せた。
「すっご〜いっ! もう最高、ジェットコースターより断然いい!」
「できればジェットコースターにしておいてください」
 彼は肩をすくめた。
「アレは安全です」
 そう言われて素直に我慢できるほど、少女は従順ではなかった。彼の言うとおり、遊園地の絶叫マシーンなんて安全に作ってあるのだ。安全だとわかりきっている乗り物なんかでスリルを感じられるわけがない。そりゃ、たまには事故とかあるかもしれないけど。
「ヘイフォン、もう一回!」
 彼は――ヘイフォンはまともに顔をしかめた。珍しいこともあるものだ。いつもにこにこ笑顔を絶やさぬ彼が、こんな風にしかめっ面を見せるなんて。でもきっと、こんな顔はあたしの前でしかしないんだろうな、と少女は思った。なんだか嬉しかった。
 ふぅっと溜息一つつくと、ヘイフォンは再び操縦桿に手をかけた。どことなくその表情に悪戯っぽい笑みが浮かんでいるような気がする。
「わかりました。では、今度はだいぶ派手にいきます」
「えっ? あっちょっと待うわきゃーっ!?」
 そして、青いACが舞い上がった。
 
「う〜ん、すいません……ちょっと調子にのりすぎましたね」
 よく風の通るガレージの隅で、少女は長椅子に体を横たえていた。顔面は蒼白で、時折苦しそうに呻き、その度にヘイフォンが彼女の広い額を撫でる。ヘイフォンは極力自分の膝を動かさないようにしていた。少女が膝を枕がわりに使っているものだから、下手に動かすわけにはいかないのである。
 乗り物酔い。気持ちはよくわかる。
「これに懲りて、もうACに乗りたいなんて言わないで下さいね。お嬢様」
「だめぇ」
 少女は弱々しく言った。
「パパも先生もいないんだから、コユキって呼ぶの」
 コユキ。漢字では小雪と書く。少女の、企業複合体ムラクモ・ミレニアム社長令嬢コユキ・ムラクモの名前である。綺麗な響きの、いい名前だとは思う。しかし。ヘイフォンは人差し指で耳の後ろを掻くと、おずおずと言った。
「では、コユキ様」
「さまもだめぇ」
「こればかりは譲れません。なんてったって私はプロですから」
「ケチ!」
「もう一回曲乗りでもしましょうか」
「ごめんなさい」
 素直で結構。余程気分が悪いらしい。とはいえコユキのことである。ほとぼりがさめたら、また乗せろとせがんでくるだろうが。
 不思議な少女である。ボディーガードという仕事がら、ヘイフォンは何人もの『高貴な』女性とは顔を合わせてきた。そのほとんどは、彼ら『卑しい』民草をせいぜい使い捨ての道具ほどにしか思っていなかったものだ。ところがこのコユキときたら。初めて顔を合わせた時からやけに馴れ馴れしくまとわりついてくるのである。
 彼女はもっぱら話を聞きたがった。仕事の話。人生の話。初恋の人がどうとか、相棒はいないのかとか、パパ――つまり依頼主である社長だが――のことが本当は嫌いだろうとか、目をきらきらと輝かせて子供のように尋ねてくる。
 そして時々コユキは『課外学習』に連れて行けと強請るのである。ジャズ・バーで酒が飲みたいだの、K−3区スラムの情報屋に会ってみたいだの、娼婦街ウェブモールに行きたいだの。今日は一体何を思ったか、ACに乗せろ、とこうである。
 ACとは、最近急成長を遂げている兵器システムのことである。機体換装が容易な巨大ロボット。おおざっぱに言うならそういう物だ。ACの操縦ならヘイフォンも自信があったし、工業系のムラクモ社にはテスト用ACがいくつか常駐している。乗せるだけならいいかと軽い気持ちで承諾したが、彼はすっかり忘れていたのだ。ACのパイロットになるなら一度は通らねばならない、この乗り物酔いの『儀式』を。
 ふとコユキの顔を見下ろすと、真っ青だったその肌はようやく暖かい色を帯び始めたようだった。ショートカットの艶やかな黒髪も、吸い込まれそうなぱっちり開いた黒い瞳も、もういつもの輝きを取り戻しつつある。
「お加減はいかがですか」
「ん、だいぶ元気」
 コユキはウィンク一つすると、ぺろっと舌を出した。
「でも、も少し膝かしてね」
 
 
 地球歴194年10月16日、午後2時7分
 
 言葉すらも出なかった。
 漆黒の喪服に身を包んだ赤毛の老婆は、ただじっとビルの窓から都市の風景を見下ろしていた。いつもと全く変わらない、ハイライン・シティの昼。人々は忙しく行き交い、与えられた仕事とそれによって得られる安寧を護らんと奮闘する。たとえ街の片隅で一人の人間が命を落としたとしても人々の流れが止まることはなく、その人間を失った当人たちでさえ時間が過ぎれば何事もなかったかのように流れに戻っていく。
 止まらない流れなのだ、これは。人が生きる限り止まることのない、欲望に満ちた流れ。本人達が何も気付かないうちに生み出される、大きな流れ。それが社会というものである。
「何かの因縁でもあるのかしら」
 出ないと思ったはずの言葉が、不思議と口から滑り出た。そんなものだ。わたしすらも。
「因縁、とは」
 しわがれた声で応じたのは、椅子に腰掛けた一人の老人だった。元は鮮やかな黒髪だったのであろう頭髪は白く薄くなり、黒い瞳にも灰色の濁りが混ざり始めている。字を読むときは老眼鏡が欠かせないし、耳には補聴器すらつけているのである。
 それでも老人には威厳があった。何もかも見越して、この世の全てすら把握しているのではないかと思えるほどの威厳が。
「リンファ。ヨシュア。アムシャ。そして今度はカナまで。こんなに続いたのでは、呪われているのではないかと思いもするわ」
「論理的ではありませんね。貴女らしくもない」
 老女は溜息を吐いた。自分らしい自分。そんなものはとうの昔に無くしてしまったのだ。あのとき、青春を共に生きた仲間を失ったあの時に。
 不思議な話だ。老女の青春は戦争と共にあった。30年の長きに渡って続いた大深度戦争まっただ中に、彼女は生きた。将来を誓い合った男ともその時死に別れ、還暦を過ぎた今になっても独身。しかし、楽しかった。生と死の狭間で、仲間を信じ、共に戦ったあの日々。二度と御免だし、後生に同じ思いを味わわせたいなどとは全く思わない。でも。
 ――楽しかった。友と歩んだあの頃が。
「もう」
 老女は寂しげに声を漏らした。声だけだった。ずっと昔に涸れてしまって、もう涙など。
「わたしをエリィと呼んでくれる人はいなくなってしまったわ」
 だからもう、老女はここにはいないのだった。彼女の魂は肉体を抜けだして、遥か遠い天国へと昇っていってしまったのだった。体はここにある。意識もある。自由に動くこともできる。でも老女はもう、死んでいるのだ。
「コバヤシ、あなたもガブリエラと呼ぶのでしょう」
「ええ、ガブリエラ女史。かつてはエリィさんなんてお呼びもしましたがね」
「変わらないわ。その融通の利かない性格」
「誉め言葉ですか? それは」
「まさか」
 コバヤシ老は、くっ、くっと呻きだか笑いだかわからないような音を漏らした。
 かつんとガブリエラ女史は足を踏み出した。窓から離れ、コバヤシ老の腰掛ける椅子の横を通り抜け、大きな樫のドアに近づいていく。その姿は歳にもかかわらず颯爽としていて、往年の聡明さを――無論今でも聡明なのだが――ありありと感じさせた。
「あの子はわたしが育てます」
 浪々と赤毛の老女は謡い、
「ユイリェンは――最後のタオの血。わたしがこの身に代えても護ります。
 ……もっとも、いつまで私の命が保つかはわからないけれど」
 そして自嘲気味に笑った。
 
 
 地球歴210年3月2日、午後4時42分
 
「何やってんの、ユイリェン?」
 夕飯の買い物から戻ったウェインは、今のテーブルに腰掛けたユイリェンを見つけるなりこう言った。
 それにしても買い物一つで一苦労である。なにしろここは都市から遠く離れた荒野の真ん中。車でどんなに飛ばしても片道一時間はかかる。だから食料や雑貨は時折まとめ買いするだけなのだが、今日はどうしても足りない食材があるというのでウェインはわざわざ買い物に行ってきたのである。趣味とはいえ、ご苦労なことだ。
 ともかくユイリェンは、手に持っていた文庫本から目を離すとぶっきらぼうに答えた。
「読書」
「……いや、そりゃ見ればわかるけど……」
「その本はの」
 突然口をはさんだのは、それまで新聞を熟読していた白髭の老人、ハーディだった。新聞といっても朝読んでいたものとは違う。これは先ほどネットからプリントアウトしたばかりの夕刊である。画面で見てもいいのだが、年を取るとモニターの灯りがちらつくらしい。
「『白い翼の騎馬戦車』とかいう、古い小説じゃい。40年ほど前に流行った」
「知っているの」
 ユイリェンは驚いて問いかけた。というのもこの作品は、恋愛を絡めた冒険小説なのである。とてもじゃないが頑固な老人に好かれるようなものではない。いくら流行った世代だからとはいえ、興味がない人間が小説のタイトルまで憶えているのは珍しい。
「死んだ婆さんが好きだったんでな」
 老人の言に、二人は思わず顔を見合わせた。
「なに神妙な顔しとる。婆さんが逝っちまったのは30年以上前じゃぞ。今更ワシが思い出し泣きするとでも思うたか」
「いや……」
「そうじゃないけど……」
 あっさり言い切る老人に、二人はそろって肩をすくめた。いくらなんでもさっぱりしすぎた爺さんである。どれだけ時間が経っても、最愛の人の死は忘れられないものだ。まして歳をとればその分感傷的にもなるというのに。こんな性格では、その妻も苦労していたに違いない。
「確か、作者は『テスラ・ダッドリー』。それ一本を書いたっきり、ぱったり姿を消しちまった謎の作家じゃ。経歴どころか性別もわからん」
「詳しいのね」
「まあ、のう」
 適当に言葉を濁らせながら、ハーディはよいしょと気合いを入れて立ち上がった。夕刊をテーブルに放り投げ、玄関を開けて外へ歩み出ていく。ウェインは慌ててその背に声をかけた。
「おいおい爺さん、夕刊読みかけ……」
「ウェイン!」
 びくっ。いつになく強い口調のユイリェンに、ウェインは思わず肩をふるわせた。見れば、彼女の目は厳しい。怒っている……のだろうか。ウェインは必死に考えた。何か悪いことをしただろうか。怒らせるようなことをしただろうか。
「わからないの、彼は泣きに行ったのよ」
 彼はあっと息を飲んだ。そしてうつむいた。考えのない自分が情けなかった。感受性は強い方だと思っていたが、なんのことはない、普段自分の感情を表に出さないユイリェンの方がかえって人の心には敏感だったのだ。老人の心の奥底に根付いた深い悲しみを、彼は読みとってやれなかったのだ。
 ウェインはぶんぶんと頭を振った。そしてキッチンに向かう。今晩は鶏肉とトマトと野菜のスープ。ぐつぐつ煮込んだトマトとキャベツがとろりととろけ、柔らかな鶏肉と歯ごたえを残したニンジンにからみあう逸品である。確かハーディの好物だったはずだ。
「よし……やるか」
 そして彼はエプロンを手に取った。
 
 
 地球歴139年8月25日、午後11時21分
 
「星って見たことある?」
 まるで思春期の少女である。コユキはもう20歳だし、そろそろ夢想気味のお子さまからは卒業してもいいはずなのだが。少なくともヘイフォンはこういうタイプは初めてだった。星がどうとかうっとりしながら言うような女性は、多感な少女か、でなければいきすぎたロマンチストくらいのものだと思っていた。
「ありますけど」
 ベッドに腰掛けたまま、ヘイフォンは言葉を濁らせた。隣に並んだコユキがぱっと目を輝かせる。
「あまりいいものではありませんよ。暗闇に、一つ二つ光が灯っているだけです。それもごくごく小さな」
 汚染された地上を捨て地下都市で暮らす人々は、星など見たことがないのが普通である。傭兵や軍人なら任務で地上に出ることもあるが、だからといって「満天の星空」が拝めるわけではない。極度に汚染された大気はぶ厚い天幕となり、煌びやかな星々を覆い隠してしまうのである。本当に星が見たいのであれば、宇宙ステーションまで出かけねばなるまい。
 ヘイフォンはすぅっと目尻を細めた。彼は広東系で、日系のコユキよりも若干目が細い。とはいえ同じレイヴン・ヘアーに黒い瞳では、ヨーロッパ系の連中には見分けがつかないそうだが。
「いいなー。あたしも見たい」
「……いいですか、コユキ様。外は危険です。少しはご自分の身も案じてください。心配でなりません」
「心配って」
 すねたように少女は――年齢から見れば少女とは呼びづらいものがあるが――足をばたつかせた。
「仕事だから? あたしのボディーガードが」
「違います」
「じゃあ、あたしが好きなんだ」
「ええ。とても」
「う」
 思わずコユキは絶句した。軽口のつもりで言ったのに、こんなにあっさり答えてくるなんて。だんだん体が熱くなってくるのを感じた。胸元に手を当てる。どうしよう。あたしは今、シルクのパジャマ一枚しか着てないじゃないか。
「コユキ様は美しい。私は好きです」
「や、やめてよ……」
「社交辞令です」
「こーのーおー!!」
「い、痛! いたいですコユキ様っ! 首はぐべべべ」
 思いっきり首を絞めてやる。大げさに痛がってはいるが、やっぱり本当はそれほど痛くないのだろう。ヘイフォンはただ、コユキの子供っぽい仕草につき合ってくれているだけなのだ。
 子供扱いされている。なんとなく釈然としないものがあった。でもだからといって急に大人ぶれば、それこそ逆に子供っぽさをさらけ出すことになる。結局コユキは、今まで通り振る舞うしかないのである。
 さんざん絞めるだけ絞めると、ようやくコユキは彼の首を解放した。今度はうって変わって静まりかえり、自分の膝に視線を落とす。ずっと、訊きたかったことがある。でも訊けなかった。答えられるのが怖かったのだ。なにもかも終わってしまうような気がして。
「ねえ」
 思い切ってコユキは尋ねた。
「ほんとに、冗談とか、そういうのじゃなくて」
 声はいっそう小さくなった。ぽつり、ぽつり、言葉は口から流れ出た。顔が真っ赤になっているのがわかった。体中火照っているのがわかった。そしてヘイフォンが、そんな彼女をじっと見つめているのがはっきりとわかった。
「あたしを好きには、なれないの?」
 沈黙。恐ろしい沈黙。音のない時間は不安を募らせ、コユキの心に闇を産み落とした。彼はどう答えるだろう。笑ってごまかすだろうか。はっきり好きだって言ってくれるだろうか。それとも――
「立場が違うのです、『お嬢様』」
 答えは彼女が最も恐れていたものだった。好きでもなんでもない、ただのガキなんて相手に出来ない。そう言ってくれた方がまだよかった。本心は違う。でも立場があるから、あたしがこんな家に生まれてきたから、だから――!
「やめてよっ!」
 気が付けば、コユキは必死に叫んでいた。
「立場とか、身分とか、そんなのもう聞き飽きてる! ヘイフォンまでパパや先生みたいなこと言わないで!」
「――コユキ様」
 不思議と優しいその声は、彼女の心にすぅっと染み込んだ。それだけで、ヒステリックに高ぶった感情が気持ちよく冷まされていく。なんだか体中から力が抜けてしまって、コユキはがっくりとうなだれた。何も言う気が起きなかった。
「人は自分の生まれる境遇を選ぶことができません。ただ、これからどう生きるかを決めることはできるはずです」
 コユキは目を閉じた。あんなに火照っていた体も、真っ赤に燃え上がっていた肌も、すっかり収まってしまっていた。そのまま彼女は体を傾けた。ヘイフォンに寄りかかって、しばらくその温もりを感じていたかった。
「ヘイフォン、あた……たたたたっ!?」
 ぺたん。そのままベッドに倒れ込む。支えてくれるはずのヘイフォンは、いつの間にかベッドから立ち上がっていたのである。この野郎。横倒しになったまま、コユキは恨めしそうに彼のにこにこ笑顔を睨み上げた。
「おやすみなさい、コユキ様。明日も良い日でありますように」
「おーやーすーみーぃ」
 コユキは思った。どうしてこう、最後までロマンチックにいかないのかな。全く。
 
 後ろ手にドアを閉め、ヘイフォンは立ち尽くした。
 その顔から笑顔が消える。その瞳が闇を捉える。冷たく鋭い刃のような雰囲気。暗い部屋は闇に満ちていたが、彼はその中でも最も黒々とした闇であった。見るものが今のヘイフォンを見れば、即座にこう言っただろう。この男は、ただのボディーガードなどではない。獣だ、と。
「随分なついているな」
 声は影の中から響いた。ヘイフォンのそばにわだかまっていた影が、ゆらりと揺らめく。やがてその揺らぎは人の形を取った。彼と同じ、闇色の目をした男。
「オズワルド」
「情が移ったか。お前ともあろうものが」
「まさか」
 下衆の勘ぐりに、ヘイフォンは失笑した。彼は人の感情など持たぬもの。完全な道具。闇に生きる刃。駆け抜ける死の撒き手。ムラクモ・ミレニアムと世界を二分して争う巨大企業複合体クローム社の専属エージェント、作戦名『ブラックゲイル』。
 それがヘイフォン――黒風――の本当の姿である。
「ならば良い。三日後に決まった」
 ぴくりとヘイフォンは眉を動かした。
「了解した」
「では、くれぐれも過ちのないように」
 ふわり。締め切った部屋の中で風が揺らめく。優しく頬を撫でる冷たい風が収まったそのあとには――
 連絡員オズワルドの姿は、跡形もなく消え去っていた。
 
 
 地球歴200年6月19日、午後1時1分
 
[エラーコード3632LがサブジェクトES46FM1で発生しました、女史]
 午後の実験に取りかかろうと思っていた矢先、人工知能プログラム「エリィ」はそう言った。
 その場にいるスタッフたちもキョトンとしている。ただ一人平常心を保っていたのは、実験主任の老女――ガブリエラ女史のみであった。彼女が創り上げた人工知能「エリィ」は、いわば彼女の娘とでも言うべき存在。そしてエリィの記憶はガブリエラ女史の脳から移植されたものである。その意味でエリィはガブリエラ女史の分身であるとさえ言えた。
 つまり、その考えなど手に取るようにわかる。
「何があったの、エリィ」
[ユイリェンが泣いています。原因は不明、対処方法が記憶にありません]
 無表情で淡々と告げるエリィ――その姿はホログラフ投影された赤毛の女性――に、ガブリエラ女史は溜息を吐いた。そんなことだろうとは思っていた。丁度あの子が学校から帰ってくる頃だし、今日は転校初日。泣き虫ユイリェンがいじめられるのは目に見えている。
 十五分延期させて。スタッフたちにそう言うと、彼らの苦笑を背に受けながら女史は実験室を後にした。目指す先は彼女の家――といってもこの実験棟の中にあるのだが――である。
「エリィ」
[はい]
「原因はわかった?」
[原因は不明です]
「では過去の記憶から最も可能性の高い類似事象を摘出しなさい」
[はい……原因は学校での苛めである可能性が高いと思われます]
「その通りよ。原因が不明の場合は自動で今の行動をとりなさい。これを推測と定義します」
[了解しました]
 幾度となく繰り返した奇妙な問答。ここ5年の間、女史は「エリィ」の教育に身を捧げてきた。未だ発展途上ではあるが、いずれ――少なくとももう5年やそこらはかかるだろうが――彼女は立派な制御人工知能となってくれるはずである。
 そして女史が育てるもう一人の娘。それがユイリェンである。かつての親友の孫にあたるこの子は、その親友の面影なんて少しも感じさせない大人しい子であった。泣き虫で、甘えん坊で、女史以外には心を開かない。あれほど社交的でにぎやかで――いきすぎて時々うるさくすらあった親友と、本当に血が繋がっているのかと思いたくなるほどである。
 女史は自分の家の前に立った。毎朝毎晩くぐっている慣れ親しんだドアをじっと見据え、呼吸を整える。彼女はこれからおばあちゃんにならねばならない。泣き虫ユイリェンが安心して甘えられる大きな家になってやる必要があるのである。でも、と女史は不安になった。ひょっとしたら、親の顔を知らずに育ったユイリェンが内向的なのは、自分が甘やかしすぎたせいなのかもしれない。
 ともかく覚悟を決めると、女史は自分の家の戸を開けた。
「ユイリェン?」
 声をかけながら家の中をのぞき見る。熱帯魚がふわふわ浮かんでいる水槽。鉢植えの観葉植物。フローリングには綺麗にワックスがかけられていて、ぴかぴかと鮮やかに照り輝いている。どこからともなく漂ってくる淡い香りは、香草のポプリである。朝出かけた時と変わりのない自宅の玄関だった。
 『孫』の姿はどこにも見あたらなかった。てっきり戸を開けた瞬間に飛びついてくるかと思ったが、奥の方に閉じこもっているのだろうか。ユイリェンの小さな靴は玄関に転がっているし、彼女のスリッパもなくなっている。
 女史はスリッパに履き替えると、おずおずと――自分の家であるにもかかわらず――足を踏み込んだ。ぺたんぺたんと間の抜けた足音が耳に障る。居間の戸を開け中をそっと覗き込むと、そこにはソファの上にうずくまる少女の姿があった。
「ユイリェン?」
 女史の声を聞き、少女ははっと顔を持ち上げた。肩にかかるくらいの艶やかな黒髪。深く黒く透き通った瞳。あどけなく、それでいて将来の美貌を予感させる顔立ち。肌はアジア系とヨーロッパ系の中間色。いくつもの人種が混ざり合った、不思議なかわいらしさを保つ少女だった。
 ユイリェン・タオ・スギヤマ。少女の幼名である。
 ユイリェンの瞳からは、止めどなく涙が溢れ出ていた。白く美しい柔肌は真っ赤に火照り、何度も擦ったのであろう目尻には痛々しい腫れができてしまっている。
「おばあちゃぁん!」
 高い声で叫びながら、ユイリェンは女史に駆け寄り、しがみついた。女史のお腹に顔を埋めただひたすらに泣きじゃくるその姿は、哀れでもあり同時に奇妙な愛らしさをも持っていた。自然と護ってやりたくなる――そういう魅力を、少女は持っていたのである。
 女史は膝立ちになってユイリェンを抱き寄せた。そっと少女の髪を撫で、耳元で優しく慰める。
「そんなに泣いて、一体どうしたの、ユイリェン」
 ぐすっ。鼻をすすると、ユイリェンは手のひらで涙を拭いた。いつの間にか涙は止まっていた。痩せて枯れてしわしわのかさかさになってしまっているはずのおばあちゃんは、なぜだかとても柔らかくて、びっくりするくらい暖かい。ふんわり包むように抱きしめられると、途端に涙が止まってしまう。
「……ひっく……う……」
「ほら、大丈夫。おばあちゃんに言ってごらんなさい」
「……いい……」
 消え入りそうな声で呟くと、ユイリェンは女史の腕をそっとほどいた。面食らうおばあちゃんの目の前で、涙の最後の一滴をぬぐい去る。言うわけにはいかなかった。泣いている理由は、苛められた理由は、決しておばあちゃんに言うわけにはいかなかった。それはちっぽけな少女でしかないユイリェンの、たったひとつの意地だったのである。
「だいじょうぶ……だから、いい」
 少女の視線は真剣だった。しばらく女史は彼女をじっと見つめていたが、やがて小さく微笑んだ。健気で可愛らしい姿だった。事情がどうなのかはわからないが、子供心に心配をかけまいとしているその様子がたまらなく愛おしかった。
「わかったわ。もう、いいのね?」
「……うん」
「じゃあ、おばあちゃんは仕事に戻るね。できるだけ早く帰ってくるから」
 ユイリェンの頭を優しく撫で、女史はすっくと立ち上がった。無表情のまま立ち尽くすエリィのホログラフに顔を向ける。
「ユイリェンと遊んであげて、エリィ」
[了解しました、女史]
 最後にもう一度微笑んでから女史は部屋を出ていった。ぱたりぱたりというスリッパの足音が途絶え、ばたんとドアを閉める音がして、そして家の中は静かになった。もう音を立てるものは何もなかった。泣き声も足音も過去のものとなり、ただ静寂だけが空間を満たしていく。
[何をして遊びましょうか、ユイリェン]
 静寂を破ったのはエリィの冷静な声だった。
[わたしは何でもかまいません]
「……じゃあ」
 ユイリェンはエリィの貼り付いたような笑顔を見上げた。不思議だった。おばあちゃんには絶対に言えなかったわがままが、エリィには言うことができる。今の彼女にその理由はわからなかったが、そのうちいつか気付くことだろう。エリィが家族ではなくて、友達だったからだということに。
「ママになって」
 沈黙が再び訪れた。ユイリェンはじっと、食いつくようにエリィを見つめていた。おぼろげな期待と微かな憧れを胸に、少女は真摯な瞳をホログラフに向かって投げかけていた。
[質問の意味が理解できません。もう一度お願いします]
 ああ。自然と溜息がこぼれ出る。
「ママに、なって」
[質問の意味が理解できま]
「もういいッ!」
 手近にあったクッションを、ユイリェンは思いっきり投げつけた。ホログラフをすり抜け、クッションは壁に当たって床に落ちる。そうだ、エリィは悪くないのだ。戸惑いの表情すら浮かべないホログラフから目をそらし、ユイリェンは必死に涙を堪えた。エリィは悪くない。おばあちゃんも悪くない。パパも、ママも、学校のいじめっ子さえも。ただ悪い人が一人いるとすれば、それはきっと――
 ――私自身。
 
 
 地球歴139年8月28日、午後11時58分
 
『こちらコントロール。ラクーン各機、配置に付け』
『ラクーン1、了解』
『ラクーン2、了解』
『ラクーン3、了解』
 
 揺れを感じる。ヘイフォンはすぅっと目を細めた。予定通り始まったらしい。彼らの作戦――10ヶ月もの間ボディーガードとしてムラクモに潜入し、ひたすらに期を待った作戦。ようやく実行に移されたのだ。
 ヘイフォンの目の前にはドアがあった。見慣れた、くぐり慣れたドア。彼のかりそめの主、コユキ・ムラクモの部屋である。今ごろ彼女は、何も知らずにくつろいでいることだろう。あるいは先生に課せられた宿題にかかりきりかもしれない。いずれにせよ、このビルが今襲撃されていることなど気づきもせずに、ただ優雅な日常の一こまを過ごしているだけなのだ。
 それが今、崩される。彼の――信じ切った僕の手によって。
 ヘイフォンに与えられた任務、それはムラクモ社社長令嬢の誘拐であった。敵対するムラクモ社に潜り込んだのも、長い時間をかけて信用を得たのも、任務を達成するため。そう――コユキに近づいたのだって、彼女に笑顔を見せたのだって、星について語らったのだって――
 ヘイフォンはうつむいた。忘れろ。10ヶ月の事は忘れ、元のエージェントに戻るのだ。そう自分に言い聞かせた。何も考えず、何も言わず、何も訊かず、ただ奴隷のように任務を遂行する。それが彼らのあるべき姿なのである。
 ポケットの中に手を入れる。冷たく固い感触――小型の注射器である。中には強力な麻酔薬が込めてある。か弱い少女の首筋にこれを射し込むことくらい、ヘイフォンの腕を以てすれば容易いことである。
 覚悟を決め、彼はドアの開閉スイッチに指を伸ばした。
 そのとき。
 しゅんっ。
「うわっ!?」
 ドアは勝手にその口を開けた。まだスイッチは押していないのである。それなのに開いたということは――内側から誰かが開けたということだ。それが誰かなんて考えるまでもない。目の前の少女に決まっている。
「……コユキ……様?」
「ハァイ、ヘイフォン」
 ヘイフォンは呆然と少女の姿を見つめた。いきなり開けられたドアよりも、彼女の格好の方が目に付いた。綿の黒いパンツに、同じ色のタートルネックのスウェット。すねまで隠す黒のロングコートを上から羽織る。目立たず、それなりに活動的な服装。それはいいとしても、背中に背負ったナップサックは明らかに異常だった。
 まるで、どこかに夜逃げでもするのかといった風体である。
「その格好は、一体……」
「訊きたいのはこっちのほうよ。こんな夜中に何の用?」
「あ、いえ……」
「そのポケットの中の注射器で、あたしを眠らせるっていうわけ?」
 ヘイフォンは息を飲んだ。おそらくこの娘は、もう。
「いつ……お気づきになったのです」
 絞り出すように彼は言った。気配は完全に消していたつもりだった。自分がエージェントであるということは、たとえ有能な同業者であっても見破れないはずだった。それなのにこの娘は。
 前々から思うところはあった。確かに勘の鋭い娘ではあったのだ。
「最初から。なんだか、臭いでね。クロームの人なんでしょ?」
「ええ」
 開き直り、ヘイフォンは苦笑した。
「あなたを誘拐する。それが私の役目です」
「誘拐! 古風よね、ほんと」
 鋭い視線が彼の瞳を貫いた。コユキの目が獰猛な肉食獣のように冷たく光る。ヘイフォンの顔から笑みが消えた。重圧感と緊張感が等しく彼を押しつぶしていた。その圧倒的な圧力は、ただの少女が放つにはあまりにも大きく歪んでいた。ムラクモの――数代で世界最大規模の企業にまで上り詰めた一族の――血というものなのだろうか。
「すみません。これも仕事ですので」
「違うわ!」
 コユキは力一杯に叫んだ。腹の底から、彼女に出しうる最大の音をひねり出した。精一杯、渾身の力を込めて彼女は否定した。どうしても認めるわけにはいかなかったのだ。彼女が彼女であるためには。
「そんなのは、あなたじゃない」
 彼女はすっと身を寄せた。瞳を閉じて、ただ彼の胸に顔を埋めた。感じていたかった。彼の暖かさ、彼が誰になってしまっても変わることのないこの暖かさを、ひたすらに感じていたかった。何処までも優しく深く暗いこの暖かさを。
「あたしを、連れて行って」
 その声には確かな決意の色が満ち満ちていた。
「お嬢様でも、人質でもない――ただのあたしを、連れて行って」
 
 
 地球歴207年7月8日、午前11時7分
 
 誰も、何も言おうとはしなかった。
 そこには静寂が満ちていた。真っ白な壁、ベッド、花瓶の花。台の上に置かれた何かの器具が、時折ピッと乾いた音を立てる。ただそれすらも、圧倒的な無音の前にねじ伏せられ、誰の耳にも入らないのだった。
 病室である。
 老婆はただ静かに、ベッドにやつれた体を横たえていた。もはや指先一つ動かす力は残っていない。老い弱り果てた体では、悪性の感染症に打ち勝つことなどできなかったのだ。
 わかっていた。じっと天井を見つめながら老婆は考えた。いつかこんな日が来ることはわかっていた。わたしは死ぬ。老い、病に倒れ、眠るように死んでいく。なにもかも失った彼女の生命は、奇妙なことに自らの死の確信のみを拠り所としているようであった。じきに死ぬという事実だけが彼女を生きながらえさせていたのである。
[女史――]
 悲しげな声が枕元で震えた。ゆっくりと、残った力を振り絞るように老婆は――ガブリエラ女史は眼球を移ろわせた。そこには女の顔がある。かつての、若かりし日の女史と同じ顔をした女がそこにいる。機械が生み出したホログラフ、人工知能『エリィ』だった。
 エリィ。彼女はもう立派な制御人工知能として完成した。ガブリエラ女史最大の、そして最後の仕事。その成果が彼女であった。エリィを完成させた途端、女史は病の床に伏せた。まるで成すべき事を全て成したとでもいうように。
 そしてエリィの隣には、一人の若い男の姿があった。齢は20、黒髪に黒い瞳の、鋭い殺気にも似た気配を放つ青年。彼の名はケンジ・コバヤシという。会長の孫息子であり、現在の副社長でもある。若くして才能に溢れた男だ。
 病室にいるのはこの三人だけであった。見舞いの者も、医者も、もはやここにはいない。医者はさじを投げ、形式的な見舞いは――死に行く者にやってこようはずもない。
「エリィ――ケンジ君――」
 女史は必死に言葉を絞り出した。それが無駄に体力を消耗させることであるのはわかっていた。でも、この一言さえ言い切ってしまえばもはや死を厭う理由もないのだった。確かに『孫娘』に一目会いたいという気持ちもなくはない。しかしそれ以上に、どうしても言い残したいことがあるのだ。
「ユイリェンを――お願い――」
 声は震えていた。そしてかすれていた。弱々しく細々しく、微かな空気の振動がかろうじて喉から這い出ていた。
「あの子には、呪われた血が流れている――戦いを求め、争い果てる――紅い血。
 解き放ってあげて――あの子を――」
 女史は静かに目を閉じた。
 そうだ。ようやく眠ることが出来るのだ。随分と遅くなってしまった。でも、これで彼の元へ羽ばたけるのだ。遥か遥か遠い昔に別れ、再びの邂逅を誓い合ったあの男と――そして若き日になくした大切な朋友と――逢える日がきたのだ。
 そして、女史は最期に喉を震わせた。
「――楽しかった――」
 
 ユイリェンは走った。
 体にまとわりつく制服も、走りにくい黒の靴も、なにもかもが鬱陶しかった。こんなことなら学校になんて行くんじゃなかった。ずっとそばにいればよかった。過ぎ去った過去が頭を次々によぎり、後悔の念が彼女を押しつぶした。そして彼女は叫んだ。
 ――おばあちゃん。
 けたたましい靴音が病院の廊下を風のように吹き抜けた。看護婦とすれちがう。途中で医師が目を丸くする。でもそんなことはどうでもよかった。人に迷惑をかけるとか、誰かに怒られるとか、そんなことは問題ではなかった。ただ今は、一瞬でも速くおばあちゃんの元へたどり着きたかった。
 角をまがり、ユイリェンは廊下の向こうを見遣った。おばあちゃんは一番向こうから2番目の部屋にいるのだ。遠い。1分とかからない距離が、なぜか無限にも感じられた。彼女は走った。遅々として進まない時間と、延々と伸びる廊下を呪いながら、彼女はただ走った。
 あと少し。息が弾む。心臓がどくんどくんと脈打つ。足が棒のように固い。体が鉛のように重い。それでも彼女の肉体は、自動人形のように走り続けるのだった。
 そして、ついにユイリェンはドアの前までたどりついた。ノブを捻る。腕を押し出す。ゆっくりと開いていく、天国への扉。
 
 不思議と涙は出なかった。
 
 
 地球歴139年8月29日、午前0時24分
 
「うわうわ、なんかいっぱい来たよ!」
「そうですねぇ」
 モニターに映る無数の機影に怯え、コユキはぎゅっと腕に力を込めた。前のシートで操縦桿を握るヘイフォンの背に、ぴったりと自分の体を密着させる。ついこの間やったのと全く同じように。
 ムラクモ製AC『月影』のコックピット――そこにいたのは、ヘイフォンとコユキの二人であった。無論ACは一人乗りだから、コユキは座席の後ろにクッションを敷いてその上に腰を載せている。多少お尻が痛いがこればかりは致し方ない。
 月影の前に立ちはだかったのは――そして後ろから追ってくるのは――黒塗りのAC部隊である。前の三機は角張った体つきに妙に細長い腕を持つ、一種異様な中装二足AC。後ろの4機は流線型で見た目にも優雅な軽装二足AC。クローム社製の『ラクーン』と、ムラクモ社製の『細雪』に違いあるまい。
 ラクーンはマシンガンとミサイルポッド、炸薬ピストンパンチ、そして広範囲レーダーが搭載されたバランスの良い構成。対する細雪は高速徹甲弾使用のアサルトライフルと、接近戦用レーザーブレードがその武装である。所属の違う二種類の機体ではあるが、いずれも目的は同じ――コユキの奪還であろう。
「ACが七機。帯に短したすきに長し、ですね」
 聞き慣れない慣用句に、コユキは首をかしげた。
「それって、どういう意味?」
 ふっとヘイフォンは微笑んだ。やはりお嬢様は勉強不足のようである。教師の教え方が悪かったのか、本人の努力が足りないのかはわからないが。
「捨て駒にしては高級すぎますが、私を仕留めるには――」
 ぐんっ!
 操縦桿をひねり倒し、ヘイフォンは思いっきりペダルを踏んだ。月影のブースターから最大出力の炎が吹き出し、機体は一気に加速する。一直線に、正面のラクーン三機に向かって。
 慌ててラクーンたちが弾丸をばらまく。マシンガンの弾が容赦なく月影を襲い――そして装甲をかすめることすらなく虚空へと過ぎ去った。当たらない。機体をと回転させ、縦横無尽に張り巡らされた弾幕の隙間をくぐり抜ける月影。そのままのスピードで一番手前のラクーンに迫っていく。
 月影が両腕を胸の前の掲げた。この機体の武装は特殊――腕部マニュピレーターの、人間で言う手の甲に当たる部分に内蔵されたガトリングガンである。真っ直ぐに両腕を付きださせ、ヘイフォンは引き金を引いた。
 軽快な音と火花が飛び散る。ラクーンを捉えた弾丸は、その装甲に無数の穴を穿ち――数秒でラクーンは沈黙した。後に残るのは黒煙を立ち上らせる残骸のみ。
 弾かれたように残り二機のラクーンが散開する。ようやく気付いたのだろう。相手が一体誰なのかということに。ラクーンたちの肩に装備されたミサイルポッドから、6発ずつ形12発の追尾ミサイルが射出される。
 慌てることもなく微笑みのままで、ヘイフォンはペダルを踏みしめた。月影がブースターの力で空中へ上昇していく。それを追い進路を上に変えるミサイル群。次の瞬間、彼は操縦桿をぐるりと回転させた。
 がくんっ!
 衝撃が機内を襲う。月影が宙返りしながらガトリングガンを放った。最低限の弾丸で、真下のミサイル12発を全て正確に撃ち落としていく。
 迎撃を終えると今度は真上に向かってブースターを噴かす。当然機体は加速され、真下へと墜落していく。月影の落ちていく先にはラクーンが一機。ヘイフォンは知っている。ACにとって最も反撃しにくい死角、それは――
 直上。
 天から雨の如く降り注いだ弾丸が、またしてもラクーンを鉄くずへと変えた。月影は地面の直前で機体を回転させブースターを噴かし、難なく大地に足をつける。そしてすでに、機体正面に残り一機のラクーンを捉えている。
 三度ガトリングガンが火を噴いた。月影を捉えようと旋回している間に、最後のラクーンも沈黙した。これでクローム側のACは全滅である。残るは細雪四機。
 バシュンッ!
 遠くに聞こえる炸裂音。細雪四機が一斉に空中へ飛び上がる。散開しながら高速で月影を取り囲んでいく。どうやら空中戦を得意とする特殊部隊のようである。こっちがいつまでも地上に止まっていたのでは少しばかり分が悪い。
 月影もまた宙へ飛んだ。散開した四機の中央へと。まるで自ら囲まれに行くかのように。
 すぐさま砲撃が始まる。細雪のライフルからバラバラと徹甲弾が射出され、四方向から月影に迫る。まるで弾丸のシャワーである。
 ヘイフォンは優しく微笑んだ。ぞっとするくらい優しく。
 ぐん!
 コックピットの二人を圧倒的な加速度が襲う。月影の機体が高速回転し、ほとんど隙間のない弾と弾の間を次々くぐり抜ける。そしてガトリングガンの砲撃。無茶苦茶な回避動作をしながらもガトリングガンの砲弾は一機ずつ、細雪を確実に射落としていく。
 砲撃が止むまでに5秒とかからなかった。撃墜された細雪がどずんと砂煙をあげて地面に落ちる。転がる無数の残骸の中に降り立った月影は――全くの無傷である。
「私を仕留めるには、ちょっとチープすぎますね」
 事も無げにヘイフォンは言った。あの優しい微笑みを決して絶やすことなく。
「うわ……すっごい、ヘイフォンって強いんだ」
 コユキが感嘆の声をあげた。そういえば、とヘイフォンが後ろを振り返る。そこには単純に感動し、目を輝かせる少女の姿があった。背中にあたるやわらかな胸の感触からも恐れや怯えは感じられない。
「コユキ様、酔いの方は大丈夫なんですか?」
「うん。もう慣れた」
 もう慣れた、か。ヘイフォンはふっと笑顔を消して肩をすくめた。誰だって――かつてのヘイフォン自身ですらも――AC独特の揺れに慣れるには数ヶ月を要するのだ。それをたった一度乗っただけで慣れたとは。この少女からは、何か才能のようなものを感じずにはいられなかった。
「あ、そういえば」
 やや憮然とした声でコユキが口を開いた。
「様はやめてよね。もう必要ないでしょ?」
「そうですねぇ。それなら、この際改名でもしちゃいますか。これから先『コユキ・ムラクモ』じゃ何かとやりにくいでしょうし」
「じゃあヘイフォンがつけてよ。呼びやすいのでいいから」
 名前。ヘイフォンははてと首を捻った。そう言われても良い名前などすぐさま思いつくものではない。なにせ今までの人生で、誰かに名前を付けるなんていう経験は初めてのことである。
 単純に行こう。ヘイフォンは自分自身をそう納得させると、一つの答えを導き出した。
「小雪を北京語読みして、『シャオシュエ』なんてのはどうです?」
「北京語なら」
 コユキは――シャオシュエは悪戯っぽくウィンク一つしてみせた。
「名字はあなたと同じ、『タオ』でいいよね」
 
 
 地球歴210年3月2日、午後12時36分
 
 ぱたん。
 ユイリェンは静かに本を閉じた。不思議な気分だった。たった一冊の薄汚れた本を紐解くと、まるで洪水のように思い出が溢れてくる。本の中の物語。自分自身の過去。そして今、現実を生きる自分。三つの線が交錯し、細長い糸を編んでいく。
「ねえ」
 声のした方を見遣ると、そこではウェインがこちらを見つめていた。
「その本、どういう話なの?」
 本を優しくテーブルに置き――あまりにもボロボロなので手荒に扱うと分解してしまいそうなので――ユイリェンはぽつりと声をこぼした。
「舞台は、70年前の地下都市……当時世界を席巻していたクローム社のエージェントが、ライバルであるムラクモ社の社長令嬢を誘拐するの」
 クローム。ムラクモ。いずれも歴史の教科書に名前が載るほどの有名企業である。大深度戦争の直前に解体され、いくつもに分裂して現在に至っている。その規模たるや、解体から50年経った今でも、地球上の企業の半分近くはそのどちらかの流れを汲んでいるほどである。
「でもエージェントは令嬢と恋に落ちて――両方の企業を敵に回して逃げ回るのよ。そして片田舎の地下都市まで逃げ切って、おしまい。あまり面白い話ではないわ」
 それだけの話だった。ページ数はおよそ300。没頭すれば2時間ほどで読み切ってしまう程度の小説である。構成に工夫があるわけでもなく、文章表現もやや稚拙で、それをストーリーだけで引っ張っている感がある。
「でも――」
 ユイリェンは目を伏せた。この本はおばあちゃんにもらった本なのだ。ユイリェンが10歳くらいのころ、気まぐれに小説に興味を示した彼女に、おばあちゃんが微笑みながらくれたものだ。大した話じゃないけれど、と少し悲しげな微笑みを浮かべながら。
 黄色く汚れてぼろぼろになった一冊の小説は、まるでユイリェンの過去そのもののようであった。表紙。一枚めくる。タイトルと作者名。目次。少女の悲鳴から始まる書き出し。どの欠片にもユイリェンの過去がつまっていた。開けてはならない箱のように――
 ふっと微笑み、ユイリェンは椅子から立ち上がった。
「大切な――たからものよ」
 
 
 地球歴210年3月2日、午後6時37分
 
 猫が走っている。それも直立して。
 青い猫は必死にはしって、茶色いちっぽけなネズミを追いかけ回している。穴あきチーズで罠をしかけてみたり、網を持ち出してみたり、あるいは単純にナイフとフォークを持ってよだれを垂らして走ってみたり。でもどんな手段でもネズミはつかまらない。ある時は巣穴に逃げ込み、またある時は犬小屋のブルドッグを焚き付け、時には地雷を仕掛け、ことごとく猫を撃退する。
 テレビからは子供向けのアニメが垂れ流しにされていた。照明一つついていない真っ暗な部屋の中、テレビだけがほのかに灯りを放っている。そしてそれを浴び続ける、一人の人間。揺り椅子に腰を下ろし、虚ろな瞳で、画面をぼうっと眺める老人。
 ぶつんっ。突如テレビが沈黙した。そのかわり、部屋には灯りが灯される。
 部屋に入ってきた若い男――ケンジは、立ったまま老人を見下ろした。そこにいるのは、テレビを消されたことにも灯りがついたことにも孫が入ってきたことにも気付かぬ哀れな男である。すっかり年老いた男は、目も、耳も、そして脳も鈍重になり、一日中こうしてテレビを眺めるだけの時を過ごしているのである。
 老人の名はシロウ・コバヤシ。ケンジの祖父であり、コバヤシコーポレーションの設立者であり、かつての元老院議長であり、現在の形式上の会長である。
「じいさん。ユイリェンが、野に降りたよ」
 聞こえるはずもない声を、ケンジは投げかけた。
「もうここに彼女の居場所はない。戦いにまみれた汚い大地に、彼女は降り立ったんだ」
 老人はぴくりとも動かなかった。
「これで――よかったんだろう?」
 その問いは、誰に向けられたものだったのか。それは問うたケンジ自身にもわからなかった。誰かに答えて欲しかったのかもしれないし、あるいは自分を納得させたかったのかもしれない。
 老人は黙して動かない。
 やりきれなくなって、ケンジは踵を返した。
「から――す――」
 その背に声がかかる。弾かれたようにケンジは振り返った。しかしそこにいたのは――相変わらず呆けた瞳でテレビを眺める老人だけであった。老人は、瞳も動かさず、指も震わせず、ただ喉から息を吐き出しているのだった。
「からす――は――しろ――い――つばさ――えて――のを――かける――」
 途切れ途切れに、老人は言った。低く、小さく、しかし――確かに。じっと、ケンジはその声を聞いていた。じいさん。彼の胸を、健やかなりし日の祖父がよぎる。哀れだ。あんまりにも哀れだ。友を失い、最後まで生き残った一人――あんたが一番哀れだ。
「すなわち――のろ――われた――ち――の――さだ――め――」
 

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