[ LN-DEX-1 ][ "LN-DEX-1" Divelopment Stories ]




復刊第一回目は、まさに駄作の中の駄作。王道「LN-DEX-1」
駄作の中の駄作とまでいわれるにはやっぱりわけがあったりなかったり。


 4本の脚部を展開し、ホバリング(浮遊)走行を可能とする高速移動型――それがアーマードコア(以下A.C.)・パーツに於いて4脚型と呼ばれる脚部パーツの位置付けと言える。
 何しろこれは通常の移動速度が一部の2脚を除けば他の脚部分類との比較が成り立たない。
 通常の汎用型(中量級)2脚の平均的単位速度が275程度であるのに対し、4脚カテゴリの平均単位速度は430弱。その差は実に1.5倍強。
 ところが、先に除いた2脚――高速歩行型(所謂軽量タイプ)であれば4速タイプに匹敵する歩行速度に加え、ブースト加速使用時の速度は軽く4脚型を上回る。素早い切り返しも含めれば機動性そのものに置いては軽量型に遠く及ばないのも事実だ。
 しかし、ここで4脚型のもう一つの利点“軌道安定性”が挙げられる。そう、背部マウントにジョイントされた砲――強烈な反動を伴う為、2脚歩行系の機体であれば脚部を固定しなければ放てぬ兵装が移動しながら発射可能なのだ。
 飛行中は流石に発射不能ではあるものの地上移動中に高打撃力かつ長射程のものが多く存在するこの兵装カテゴリを、気兼ね無しに使用できる。よって、有用な活用法としては、高速移動砲台としての機体構成と成る――筈なんだけど・・・。




『LN−DEX−1 顛末記』




 4脚パーツのみならず、A.C.パーツそのものの分野発展極初期から開発してきたクローム。  質実剛健を旨とする彼の企業は、徐々に幅を利かせてきたムラクモ・ミレニアムの思想と真っ向から対立する形となっていた。  熾烈な争いを繰り広げたのは何も都市の利権だけではない。4脚型パーツという狭いカテゴリの中でもそれは勿論繰り広げられてた訳だったり。
 当時、このカテゴリはムラクモの『LFH―X3』という軽量且つ高出力、おまけに低燃費と言う3拍子揃ったパーツに市場を押されつつあり、対するクロームの商品は『LF−205−SF』軽量で高速機動、熱兵器防御に優れると言う凡そクロームらしからぬ製品ただ一つであった。
 地下都市という空間制約のある戦場である以上、凡そのレイヴンはイメージとその汎用性の高さから2脚型を選択するか、或いは防御力――機能生存性を高める為に無限軌道型を選ぶかのどちらか。
 クローム・ムラクモの両社を筆頭とする争いが熾烈を極め、戦局に多様性が生まれてきた時点で、ようやっとA.C.は本来の武器――組換えによる超汎用性を前に押し出しての戦闘を強いられる事となった。
 いち早くそれを察知したクロームは、自社の理念――質実剛健を売りに出してでも、新たなパーツカテゴリに手を出した――或いはそれがDEXちゃん運命の始まりだったのかも知れない。

 『DEX』の開発は、ムラクモの出したコンセプトに対するアンチテーゼ、というところから始まった。 高い熱兵器防御、且つ低燃費、おまけに新型形状の装甲の恩恵である軽量化(≒高機動力・軽負荷)と言うライバル機に対し、クロームが採択した決断は


『装甲増加と関節機構の底上げによる高実弾防御・高耐久性・更なる重装備化(最大荷重量の底上げ)』


 というものであった・・・
 単細胞 何処まで行っても 単細胞。いとかなし。

 ともあれ開発はスタートし、クロームの得意分野をふんだんに盛り込んだコンセプトのDEXちゃんはLN−502の時のような然したる苦労もなく、通常の開発行程のみで完成された。
 試作一号のテストもそれなりに順調で、2脚以上の高機動性・予期した装甲防御性能・予期よりちょっと低い耐久性、ってとこでまぁ販売が決定された訳だ。
 満を持して発売された新型4脚。コネの広さを利用してふんだんに宣伝されたDEXは当初、クロームの予想通り好調な売上を誇るかに見えた。うん、見えた。見えたんだけどね。
 まぁこれも結果は読者の予想済みってもので、取り入れた要素は全て裏目に出ることとなった。



 まず、形状による物ではない装甲強化。つまり装甲厚の嵩上げ。  これが脚部本体の重量を大幅に引き上げてしまい、4脚カテゴリの売りである高機動性が遺憾なく損なわれている訳だ。 ・・・ってか、クロームさんや、もちっとマーケットを見据えて商売しろよ。

 次に関節機構の底上げ。  底上げと言うコンセプトその通りに駆動モーターの大径化によってなされ、機構そのものは以前の製品や2脚型の技術をそこそこ応用しただけのものだった、ということ。ただでさえ2脚よりも支点や駆動部が多いこのカテゴリに於いて、電力消費量が上がるというのは自殺行為に他ならない。
 ジェネレーターにかける負荷は、多種多様な状況下に置いての活動を要求されるA.C.パイロット・レイヴンにとっては命綱の太さに等しい――そう言っても過言ではない。  待機時の消費量こそ重量級4脚としてはマシと言えども他の脚部と雲泥の差である挙句、突出した性能が無いんじゃお話にもならないわけで。


 その次、更なる重装備化の可能性。  これついてはもう目も当てられないんじゃなかろか。DEXを基準に重装備なんぞ施した日には、水筒一個でサハラ砂漠を渡り歩く様なものだ。  待機時の消費量はそこそこでもモーターの所為で稼動時の消費量がべらぼうに高いこいつはあっという間にコンデンサを飲み干して、稼動制限が掛かる。
 更にはその高消費量の所為で売りであった筈の高耐久性・整備性が、パーツそのものとして良好であっても、A.C.そのものとして見た時に致命的なまでに悪い・・・えーっと、これ、もうどうにもならんだろ・・・。
 おまけに値段は4脚カテゴリであるが故の宿命――部品点数の多さからの高価格。

・・・ハーレーかお前は。

 市場評価は無論最悪。初めこそ広告の効果か新しい物好きでブルジョワジーなレイヴン(←この言い回しも如何かと)が試しに買ってぶいぶい使い倒す――なんて光景も見られたものだが、その設計段階での性能の悪さが露見するや否や、評価はあっという間に口コミで広がり、DEXちゃんは悲しくも駄ッ作機の烙印を押される事に。
 ハーレー・ダビッドソンのバイクならばまだその歴史や格好、スタイルとしての性能の悪さならば売りには成る。 でも本当の意味で命を預けなきゃならん兵器でそれやっちゃ駄目っていうか・・・駄目だろう。うむ。
 だって・・・ねぇ、ちょいと上がった過重限界に合わせてキャノン積んだら一大事。じゃ、装甲を全体で上げて接近タイプ! にすると速度はのろい。おまけに今ひとつ性能が中途半端な装甲のお陰で電磁パルスシールドのバランスが悪い。もうだめだー。
 そんなこんなで、そのもったりとした外見と移動のろさからDEXちゃんは「芋虫」「甲羅の無い亀」なんぞと不名誉な仇名ばかりがついていくのであった・・・。



 しかし! そんな彼女(?)にも救いは存在していたのである!!




『LN−DEX−1 物語』



 アイザックの地方(ローカル)アリーナに、一人のチャンピオンがいた。
 中央に出るほど華々しくもなかった――のだが、決して彼女に実力がないわけでは無かった。
 問題はその機体構成の在り来たり加減。
 愛機である4脚型A.C.はミッション重視型として汎用性に富んだ構成で組まれ、かつその経験をふんだんに取り入れた戦闘方は、彼女にゆるぎない勝利を齎していた。だが、そのプロフェッショナルゆえの性で・・・つまるところ派手さに欠けていたわけだ。
 アリーナ・プロデューサーとスポンサーの嫌味をいい加減聞き飽きつつあった彼女はここで妙な方向に一念発起。得意とする4脚タイプでさんざんな評価を下されていた、DEXちゃんに目をつけたわけだ。
 彼女は利点がまったく無いようにも見えたその性能に敢えて活路を見出す――それはつまり


『この脚なら使っても“強すぎる”なんて怒られないかも!!』


 いや・・・アンタそれ、レイヴンとして如何なのよ。
 まぁ、兎にも角にも彼女は早速ガレージのオヤジに発注なんか掛けちゃったりなんかしちゃったりした訳だ。
ガレージのオヤジは心中穏やかでなかった事だろう。ナムー。
こうして彼女は新たなる愛機――A.C.“プリティキトゥン”を手に入れた。

 腕部ジョイントには軽量且つ低消費の連装ミサイルポッド・背部には2本の長い砲身――ベアリング球のショット・キャノンを装備。まさに4脚の面目躍如、移動砲台!
 そして何だかもこりとしたその可愛い外観!!(なにか?  ついでに髪をカラフルに染め分けてエンブレムにはピンクの猫のマークと、目立つ事この上ない格好で勝負に挑んだ。本人の派手な出で立ちは兎も角、機体がM.T.に見えるのは筆者だけではないだろう・・・まる


 何はともあれ、結果彼女は大躍進。中央進出を果たし、レイヴンズ・ネストのランキング――アリーナ成績だけでなく、企業からの注目度によって番付がなされる――の上位に見事食い込むと言う脅威の(恐怖の?)大活躍を遂げて見せたのである。・・・駄ッ作機って変なパワーあるよなぁ。







 後の顛末。
 そのどうにもなら無い機動速度の所為で機体を大破させられた彼女が、その後に発売されたムラクモの新型『LF−X5X』に乗り換えたってのは――まぁ、内緒にしておこう。




 ちっともすくわれてないきがするのはきっとあなたのきのせいです。オワリー