*注意!
 この作品はこちらで掲載させていただいている「アーマード・コア」の世界観を大きく損なう危険性があります。設定としてはパラレルワールドなのでそのつもりで楽に読んでやって下さい。



 『おせちに飽きたその時は……』




 お正月というとテレビでは毎年顔におしろいを塗りたくった殿様が出てくる。魔法で小さくなって待女の服の中に潜り込んだり、城下町に行って町娘(これがけっこう有名人)と恋に落ちる。そりに乗った勢いで時代のずれた世界へ行ったり、必殺仕事人のパロディ、そして締めはアイーン体操――ともあれ出てくるネタは毎年ほとんど同じなのになぜだか見てしまうあの魅力は不思議だった。そういう意味では何となくチャップリンにも似ている感じがするが……。
 毎度の微妙に売れない三人組(個人的には尊敬すらしています)がヤモリと卵と養命酒の混ざったジュースを飲んで吐き出す様はいつ見ても楽しいものだ。そしておしろい顔の殿を補佐する二人の老中、一人の老いた老中が殿のいたずらに激怒し、血圧を気にしながら暴れ回る。本当ならそれを抑えるもう一人の眼鏡の老中がいて、結局二人で怒るというパターンなのだが……何とも残念でならない。
 あの男のいない番組などもはや見れる気がしなかった。
 ――長々と述べたが、この冒頭は全く脈略もつながりもない……御免なさい。


 ストラグル24支部、たった一つの脚立を囲んで、11機械化特殊部隊は無言のまま座っていた。テレビは付けっぱなしで騒がしいが、誰もたいして気にとめない。ウィルの住んでいる個室にカワサキやラズーヒンが入ってくるのは任務の時だけだし、ましてや一緒にテレビを見るなど考えられない。が、今は違った。一応和気あいあいとした団らんのために彼らは集まったのだが……実に悶々としている。
 ちらりと目を移して垣間見てもカワサキはむっつりとして、ラズーヒンは相変わらず何を考えているのか分からない。普段なら気まずい雰囲気を無くそうと頑張るのだが、今回ばかりはそんな気がしない。
 とにかく、無言のままでそれぞれが座ってうつむき、目の前に置かれたブラックボックスを眺めていたのだ。
 ブラックボックス――別名ジュウバコ。三日前に支給された黒い漆塗りの箱、まさに純和風といった感じだが擦ると今にもはがれそうで何となく安っぽく、身の上が悲しくなる。三段に積み重ねされた箱は一つ一つ取り外せてけっこう合理的な設計だった。こんなものがテロに支給されることもきつい冗談だが、何より許せなかったのは上表にただ一言「技術のムラクモ」と紅く筆で書かれたロゴ、ふざけているのか真面目なのか――これを見ているとムラクモ社の将来が何となく心配でならない。
 ともあれこの箱に入っているものが彼らの悩みの種であったに違いなかった。
 「はぁ〜」
 真っ先にウィルが溜め息を付く。ちらちらと箸を眺めてから、気怠くつまみ上げてくるくると回した。
 「そんな溜め息を付くな。ムラクモから支給される年に一度のご馳走だぞ」
 といいながらもカワサキの顔も浮かばれない。慣れた手つきで箸を取り、嫌そうに箱をずらして中をのぞき込む、中に入っているものは変わるわけもないのに。
 
 黒豆・ひじきの煮付け・芋きんとん、栗の甘露煮・片口イワシの佃煮・かまぼこ・青豆かずのこ・きんぴらゴボウ……まだ終わらない、ちょうろぎ・伊達巻き・梅クラゲ・ニシンの昆布巻き・キンカン漬け・紅白なます……。暖色系のたくさんの料理が小分けされて三段の階層全てにぶち込まれている。黒い箱の中は紅色に塗られ、まるで料理というよりおもちゃのジオラマみたいだ。このプレゼントをムラクモ社からもらった初めの日は、物珍しさと数ある珍味に感動したが、さすがに三日もすると……。


 「レーズンパンが食べたいです」
 「私はライ麦パンですね」
 「わがままいうな――とりあえず食うぞ」
 迷い箸をしたい気持ちを抑えながら、全員がそれぞれの料理に手を付けた。

 思わずため息をもらしながら伊達巻きをほうばる。薄黄色の渦巻きがしっとりと湿っていた。
 ――やわらかくてジューシーな汁が口の中に広がる。しかし甘い、甘すぎる。

 伊達巻き一つを食べて、口直しに今度はかずのこを。宝石のように輝くかずのこに青い大豆の若々しい彩り。磯の香りがウィルをイデアの国へと誘う。そう、それは儚くも春を待ち望むペンペン草の若葉を彷彿とさせるような……ああ、あほらし……。
 ――まずしょっぱかった。薄い膜で包まれたかずのこをかじるプチプチした独特の感触は初めは面白かったが、さすがにもう飽きてしまう。一粒一粒が口の中に残って口内炎みたいで、気持ち悪いとも言える。

 最後に極めつけのきんぴらゴボウ。西洋的な生活で育ったウィルにはゴボウが木の根っこ同然に見えてしまうのだった。カワサキは独特のアクがたまらないといっていたが、今の彼はアクにやれれたような仏頂面で、まるでゴボウみたいな表情をしている。
 ――かたい、油が絡めてあってそれがまたしょっぱい。そしてその中に潜む根っこ臭さにウィルは逝った。冷やし中華は食い物じゃないと至高の料理家がいっていたが、きんぴらゴボウこそ食いもんじゃないと思った。

 「……冷たいですね」
 たった三口食べたウィルはテーブルに箸を置いて溜め息を付く。真冬だというのにこの小料理は汁っけがなくパサパサしていて、少しも体が温まらなかった。
 「おせち料理……私はロシア系なのに……ムラクモ社の日本びいきには困ります」
 ラズーヒンも同調しながらにんじんと大根のなますにやたらと執着していた。一つの料理を食べ終わるまで次の料理には絶対手を出さない彼にとっては、ゆずの効いた甘苦くて冷たいなますはまさに地獄だろう。それでも表情一つ変えない彼は大した男だ。彼の口から溢れる大根の汁に、ウィルは目頭が熱くなるのを感じた。
 「こうも続くとおせち料理も飽きるな」
 「全くですよ、かたくて消化も悪いですし、胃腸がだるい……タール便になっちゃいますよ」
 再び箱の中の多すぎる料理に圧倒された彼らは、急いで重箱の蓋を閉じた。
 「あぁ〜温かいスープが飲みたいです。それに肉が食べたいですね」
 「まあな、疲れた胃腸に肉はきついが、しかし俺は何か食い応えがあるものが食いたい」
 「そうなんですよ、こってりじゃなくてさっぱりとしていてしつこくなくて温かいものが……」
 「ウィル、そんな料理はそうありませんよ。味っ子じゃあるまいし」

 ――コンコン。
 もう一度溜め息を付こうとしたその時に、前の扉がノックされた。こんな時に来てくれるのは――
 「よう、集まっているじゃないか」
 ジェームスだった。
 「ジェームスさん……」
 「ジェームス、今年も宜しくお願いします」
 「なんだ……お前か」
 それぞれが新年の挨拶を交わす。全員のそれなりの挨拶をもらったジェームスは黒い箱を見ながらうっすらと目を細めて、同情を示した。どうやらどこでも同じようなもんらしい。しかしそんな彼らの様子を楽しむように眺めたあと、ジェームスはおせちに飽きている彼らへともったいぶって両手を上げた。
 魚だった。30pくらいの大きな魚が二匹、ジェームスの手にぶら下がっている。とても大きくて色の紅い、目の澄んだ魚が握られていたのだ。
 「おせちに飽きたお前等も、これで少しは目が覚めるだろう」
 「おお! そりゃ鯛じゃないか!?」
 カワサキの目が輝き、ゴボウ色の表情がぱっと変わる。飛び上がらんばかりにカワサキは喜んだ。
 「フフフ……一昨日の任務の帰りに市場に寄る機会があったんだ。養殖だが珍しく新鮮でな、今時珍しいよ。値は張るが元もと金なんて使わないから二匹まとめて買ってきたんだ」
 「鯛か……鯛……鯛!! ジェームス、良くやったぞ。感動した!」
 今にも優勝トロフィを手渡すぐらいに、珍しく感情を出しまくっているカワサキとジェームスが持っている赤い魚を見比べたら、そりゃあ気になるのは人情ってもんでしょう。骨張った頭にいかついヒレ。魚独特のちょこんとした目と突き出た唇が、死んだ魚には申し訳ないがユニークである。ウィルは『タイ』とか言う魚を見るのは初めてだった。
 「……タイって、そんなに美味しいんですか?」
 横ではしゃぐカワサキを尻目に物知りなジェームスに尋ねる。
 「何だ、お前鯛を食ったことないのか?」
 「ええ、見るのも初めてです」
 「そうか……こりゃあな、マグロと並ぶ魚の王様なんだぞ」
 マグロなら食べたことがあった。それこそ信じられないくらいの大きさで、まるで砲弾みたいなのだ。煮ると臭いが、生のままならば臭みがなくて中庸な味がする。貝やいかとは違って、ソースを付けることで本当の旨さが出る珍しい魚だった。
 「じゃあマグロみたいな味がするんですね!?」
 「とんでもない! 全然違う、これは白身の魚だ。見た目とは裏腹にとても繊細だが、しっかりとした味が出ていいんだなぁ……煮たり焼いたりする分にはマグロよりずっと上だと思うよ」
 話し上手なジェームスの言葉を聞くと思わず想像とお腹が膨らんで、たった三口で一杯になったことなど忘れてしまう。なんだかんだ言って自分も結構な食いしん坊なんだ。
 (……白身で淡白、けれど確かな味がある。まさに疲れたぼく達にはぴったりじゃないか! おせち料理から解放され、タイって言う見たこともない魚を食べるのが楽しみでならないよ!)
 「一昨日というとけっこう日にちが経っているので刺身は危ないですね」
 やっとこさでなますを食べ終えたラズーヒンが冷静なつっこみを入れる。表にその辛さを示さないが、充満するゆずの匂いが激戦を物語っていた。
 「個人的にはシンプルな塩焼きが好きです。これぞ鯛っていうかんじで……無性にライスが食べたくなりますね」
 「そうだな……寒いから暖かいものが飲みたいが、材料もたいしてないし……ここは無難に塩焼きと行くか……」

 「待て!!」

 ここでカワサキが割って入る。さっきまでの歓びを引きずって、何とも楽しそうだ。
 「確かに塩焼きも悪くない……だが飯やみそ汁なしに鯛だけ食うのも寂しくないか?」
 自信満々、天真爛漫。飯とみそ汁がないことすら楽しそうにカワサキが言った。
 「とは言ってもみそや野菜、そして米も明日の配給まで手に入りませんよ……」
 「材料たって水と塩、あとはだし用の昆布に料理酒(何でこんなものがあるんだ?)ぐらいだぜ」
 「一体何を作ろうとしているんですか、カワサキさん?」
 この質問全てに答えられるカワサキが眼鏡をずらす。その時カワサキの眼鏡がキラリと光ったのをウィルは見逃さなかった。どうやらこの男は、味の方にも相当うるさいらしい。
 「さっぱりとしていてしつこくない、そして食べ応え十分。全員が満足する暖かい鯛の調理法、それは――」

 鯛のうしお汁を作るぞ!!

 カワサキが吼えた。







 ふきんにまな板、出刃包丁に普通の包丁が二本ずつ。やかん、カレーを煮る大きな鍋に大きめのざるとボウル(できればポリ袋もお忘れなく)。だし用の昆布に料理酒に塩……そして極めつけの鯛二匹!!
 「何とか器具は揃ったな」
 ウィルの部屋に見慣れない器具がずらりと並んでいる。包丁やまな板など一体どうやって手に入れたか気になるところだが……。
 「全く大変でしたよ。いきなり調理係と世間話をしろだなんて」
 「私のオペレートの元、ウィルが前方に展開しつつ調理係を惹き付ける囮となる」
 「そして隠密行動が得意な俺が虚をついて目標物を奪取――陽炎の如くダッシュ!」
 「――戦法はいつも通りだったな」
 「怒ってましたよ。調理係の人『ドロボー!!』って叫んでたんですよ」
 「そうか? ……俺にはブラボーって聞こえたぜ」
 「私にはフラゥ・ボゥって聞こえましたよ」
 「全く……それにしてもカワサキさんも酷いですよ、遠くから見ていただけだなんて……」
 「バカ言え、俺はスナイパーだぞ。殿に付くのがちょうどいいんだ」
 とまあそういうことらしい。とりあえずなんだかんだで器具も揃ったことだし、カワサキが普段とは違う表情を見せて、まな板の上の鯛を洗面台に運ぶ。ウィルの部屋にはキッチンがないため、洗面台で調理をすることとなったが、男四人が棒立ちで洗面台を取り囲む姿は異様だった。

 「さあ、下ごしらえだ」
 はきはきと声をあげたカワサキが並んで横たわる鯛二匹に、つまんだ塩を磨り込む。魚のぬめりを取って滑りにくくする基礎中の基礎だ。ご馳走に対する感謝の気持ちか、カワサキの思いやりの手によって塩を磨り込まれる鯛が、ウィルには何となく垢擦りマッサージをうけているオジさんのように見えてきて可愛かった。焦点の合わない魚の目がどうしても耐えられない人もいるが、ウィルにはかえってひょうきんだと思えてならない。
 「ラズーヒン、湯を沸かしといてくれ」
 カワサキの命令通りにラズーヒンが蛇口を捻った。やかんの中に水が入る爽やかな音がして、蓋を閉じてジェームス持参の簡易ガスコンロに火を点ける。青白い炎がやかんの丸底を包み込んだ。ふっくらとしたヒョットコのようなやかんが、火にあぶられてシュンシュンと唸るのは冬の風情があって実にいい。
 そうこうしている間にも、カワサキが鯛に塩を磨り終わり、尾っぽをふきんで掴んで洗面台に頭を向けた。一呼吸置いて狙いを定め、彼は無言のまま包丁を取り上げた。
 「あっ!!」
 思わずウィルが声をあげた。ひっくり返された包丁の背が鮮やかに鯛の身を行き来し、軽快な音と一緒に透明な鱗がこぼれる。平坦な面では背全体を、ヒレの周りでは切っ先側を使って銀色の返し刃が鯛の体を縦横無尽に駆けめぐる。規則正しくシャッシャッと鳴る音はジャズギターの4ビートみたいで心地よく、鱗はお菓子のビニールパッケージを破くように、鮮やかにはがれていった。これはもはや全く見事の一言に尽きた。
 「へぇ……大したもんだなぁ……よし、ウィル、俺たちもやるぞ! ラズーヒンもやかんばっかり見てないでこっちへ来いよ」
 無骨なカワサキに、何でも器用にこなすジェームスが負けるわけにはいかない。年不相応な競争心も正月ばかりは許されてもいいもんだ。まずジェームスとラズーヒンが見守る中、ウィルが包丁を一本取って鯛の背中に押しつけた。
 「あれ!?」
 またしてもウィルが声をあげる。素手で掴んだ鯛のしっぽがぬるりと滑って洗面台をそりのように駆け下りたからだ。
 「小僧、魚を掴むときはふきんで掴むといい……滑るぞ」
 カワサキは一言いうと、また鱗取りの作業に取りかかった。
 こうしちゃいられない。今度はふきんでがっちりと抱え込んで包丁の背をこすりつける――今度は上手くいった。しかし、包丁の背は胸ビレの辺りで引っかかってしまい、何とも歯切れの悪い鱗取りだった。
 「そら、がんばれ!」
 ジェームスのエールが入る。しかしこの作業はかなり力がいるのだ、とても女の人の手では難しいと思った。ウィルも僅か5分足らずで二の腕がつりそうになっていた。
 とは言っても魚さばきには、ただ力があればいいというもんでもないらしい。うっかり力を入れて、雑に仕事をこなそうとすると……。
 「痛っ!!」
 という具合に怪我をする。包丁を力任せに押し出したため、ウィルの柄を握った指に鯛の背ビレが刺さったのである(鯛の背ビレは見た目通りに大変硬く、実際初めて鯛を扱ったとき何度も指を刺してしまって鱗取りに50分近くかかりました。そういう意味ではここは無難にお店の人にさばいてもらった方がいいかもしれません)。

 無駄なうんちくを垂れている間に、既に鱗は取り終わっていたらしい。結局ジェームス、ウィル、ラズーヒンの三人がかりで一匹の鯛をさばいたがカワサキ一人に勝らず、三人は肩で息すらしていた。しかし鱗を取った鯛の身は、綺麗な赤にほんのりと白いさざ波が入ったようで、全員は結果に満足していた。
 「これから身を切り分けるわけですが……どうしますかカワサキ?」
 はらわたと、胸、腹、背のヒレを包丁で丁寧に取り払っているカワサキに、ラズーヒンが指示を仰ぐ。
 文句なしに今回もカワサキがリーダーだ。
 「うむ、ここは三枚おろしでいいだろう」
 というと、料理リーダーはもう一本の包丁、出刃包丁を取り上げた。この刃身の厚さが半端ではなく、包丁というよりナタみたいなのだ。浅黒いカワサキの手に持たれた出刃包丁は異様なほどにはまっていて、ウィルはカワサキに腹巻きや捻りはちまきのオプションを付けて、「第三共栄丸」ともてはやしたくなる衝動に耐えた(ましてや彼は忍たまでもなかったからだ)。それ程に【男の料理人】と言う感じがした。
 出刃包丁で大きな頭を一刀両断、重ね重ね魚には申し訳ないが美味しく食べるので勘弁してもらうしかない。今度は包丁を普通のやつに持ち替えて、しっぽの方から刃を入れる。掌全体で身を抑えて少しずつ滑らせていき、そしてひっくり返してもう一度……あっという間に鯛の身が三つに分かれた。
 「ここの工程はちょっと慣れがいるから俺に任せておけ、だが魚の三枚おろしぐらい出来ないと話にならないぞ」
 そういうとカワサキはもう一匹の鯛もおろしにかかった。もちろん時間を無駄にしないように、ラズーヒンもはがれた鱗をかき集めて小さいポリ袋に入れる。切り分けられた身を普通の包丁でウィルがぶつ切りにして、背骨が付いた身をジェームスが出刃包丁で叩き切っていく――言い忘れたがこの料理では鯛の骨が付いた身も使う。そうすることで鯛の旨みが十二分に出るからだ。
 「小僧、ここに包丁を入れろ」
 カワサキが指示をする。これがなんと鯛の口だった、この料理は鯛の頭すらも無駄にしないらしい、カワサキが鯛の口をこじ開けてそこに包丁を押し込めと言うのである。手渡された出刃包丁の重みがウィルにずっしりとのしかかった。
 「カワサキさん……まさかそれって」
 「そうだ……こいつの頭を唐竹割にする。二匹の頭半分ずつでちょうど四人分――頭からも良いだしが出るんだ」
 「うえぇ!」
 魚の頭を真っ二つにカチ割る、はっきり言って気持ち悪いし、頭の骨は硬くて相当な力が必要だ。それに切ったおかしらは不安定で、ちゃんと押さえてないと指をざっくりといく、これは危ない。
 「……そんな……そんなことって……」
 ショックを受けたウィルにカワサキが眉をひそめた。見た目は気持ち悪いが、頭の骨や目玉からいい味が出ることは確かだった。カワサキはウィルのはっきりしない気の弱さが気に入らなかったが、敢えて気の弱いウィルに頼むカワサキも人が悪い。
 
 「いいからやれ、やるんだ!!」
 「やって下さい、ウィル。私達のためです」
 「そうだウィル、やってくれ……俺のために、お前のために!!」
 がんばれがんばれウィル坊ちゃん――中年組からヤンヤヤンヤの喝采が興った。
 そして、ここからノリが少しおかしくなっていく。
 「そんな……そんな……僕に、僕に……」
 ウィルは青ざめてブルブルと震えながら、得意の台詞をかました。

 僕にこの手を汚せというのか?



                       【――続く――】