「敵来襲!敵来襲!」
 「総員、戦闘用意!」
 敵襲の鐘が鳴り響く。
 あれから1日後、早朝の事だ。
 「ちっ、来たか!」
 ガルドが苦々しく、そう言った。
 その横には同じ円卓騎士のルークとイルム。
 他の円卓騎士が出払っている以上、3人にかかる負担は多かった。
 「敵は量産型のAC50、レイヴンのAC4!」
 「ガルド〜!」
 ユーミルとリット、そしてビリーが走ってくる。
 「丁度いいところにきてくれた、あんたたちも出てくれ。俺たち円卓の騎士はともかく、他の奴らは実戦に慣れてないんだ」
 ルークがビリーにそう言った。
 「敵の第一波は既にすぐそこまで来ています。急いだ方がいいのでは」
 イルムがこんな時でも淡々と告げる。
 「わかった。僕もヴェルフェラプターで出るよ」
 「じゃあ、GT−ファイターで出るぜ!」
 「わたしも!」
 「待った」
 ガルドが制止した。
 「ユーミル。お前は残ってろ」
 「えっ?」
 突然のその言葉に、驚きを隠せない…というか言っている意味が分からずに硬直するユーミル。
 「これからはお前は、本当にやばい時だけ出撃しろ。それ以外の時は、俺たちに任しとけ」
 「そういうことだ」
 ビリーもうなづいた。
 「なにそれ…自分たちだけ経験値稼ごうってたくらみ?」
 「経験値って何だよ…?とにかく、おまえは残ってろ!いいな!」
 そう言い残し、ガルドはガレージの方に走っていった。
 ビリー、ルーク、イルム、そしてリットもそれを追う。
 


 第20話「巫女の背負いし蒼の十字架」


 先に出撃したのは、ルークのカイゲンヴェルクとイルムのカレアバーナだった。
 カイゲンヴェルクは重量逆間接の重武装機体だ。右腕にプラズマライフル、左腕にブレード、肩にはエネルギーガトリングガンとレーザーキャノン。
 カレアバーナは重量2脚のACだ。武装は両方の腕に装備されている異様に大きいレーザーブレードだけだ。
 最初に向かってきたのは、10体近いダイスである。先頭のダイスが一斉にマシンガンを2機に向かって発射した。
 ルークのカイゲンヴェルクは重量級とは思えぬスピードでその攻撃をことごとく回避していく。そして右腕のプラズマライフルをダイスに向けた。
 次の瞬間、ダイスが2体爆砕した。銃声は1発きりである。1体を破壊したプラズマライフルの光弾がその後ろのもう1体も破壊したのだ。
 「何だいこいつら?大した事ないな」
 ルークが軽い口調で言う。
 一方イルムのカレアバーナは、敵の攻撃をよける事もなくそのまま突っ込んでいた。
 マシンガンの集中攻撃がカレアバーナを襲うが、高速で連射される銃弾はカレアバーナの装甲に弾かれ、どれも傷を負わせるには至らなかった。
 そしてカレアバーナは既に敵の真っ只中に飛び込んでいた。
 両腕に極太のレーザーブレードが構成される。その長さも通常のブレードの倍近くあった。カレアバーナの両腕が振るわれると、一気にその周囲のダイス4体が上と下にその体を分かたれ、爆炎とともに崩れ落ちる。
 「推定戦力差は、1:10。問題なし」
 イルムが敵を次々と切り倒しながら、そう言った。先ほどからダイスたちは、この2機に軽傷すら与えられず、次々に撃破されている。
 「相変わらず、やるなこいつら…俺も負けてられねえな」
 ガルドのベーゼンドルファも、パルスキャノンやグレネードライフルを使い、次々とダイスを撃破する。既にダイスの数は半分近くになっていた。
 だが。
 「それ以上はやらせるか!」
 不意にベーゼンドルファに向けてバズーカが放たれた。
 側面からの攻撃だったため、回避が間に合わず喰らってしまう。
 「ちっ、リールだな。しつこい奴だ」
 ガルドが機体をバズーカが放たれた方、つまりリールのハーディ・ハーディの方へと向き直らせた。
 しかしそこに居たのはリールだけではなかった。
 ドルーヴァのマッドドッグもこちらに向けて両肩のガトリング砲を向けている。
 「奴らが目標か、確かに手ごたえがありそうな連中だ。面白い」
 カイゲンヴェルクとカレアバーナは相変わらずダイスを次々と撃破していっているが、ヴェルフェラプターの前には2機のACが立ちはだかっていた。
 雑賀の哭死とグリュックのグリュックス・ゲッティンだ。
 「漆黒の刺客か…ずいぶんと話が大きくなってきたもんだぜ」
 グリュックがぼやく。
 「やってられないよ全く。まあ、これが仕事だから仕方ないね」
 雑賀も面倒くさそうにサングラスを掛けなおす。
 2機はそれぞれ武器を構えた。
 哭死はライフル、グリュックス・ゲッティンはスナイパーライフルだ。
 「やるしかないのか…行くぞ、ヴェルフェラプター!」
 ビリーは自分の愛機にそう言うと、レーザーライフルを構えた。
 そして、ルークとイルムの快進撃もどうやらここまでのようだ。1体のACが2人の眼前に降り立ったからだ。
 「相変わらず腕は落ちてはいないようだな…ルーク、イルム」
 その声にはっとする2人。
 そのACはエルディバイラス。
 アルマだった。
 「ちっ…出やがったか…」
 ルークが先ほどまでの軽い調子は微塵も感じられない雰囲気で、エルディバイラスを睨んだ。イルムも、いつもとはあまり変わらないが、それでも緊張を隠せない様子である。
 「では…始めるとするか?」
 アルマの声と同時に、2人が動いた。
 カイゲンヴェルクが舞い上がり、レーザーキャノンを放った。
 エルディバイラスはそれをわずかな動きだけで回避すると、突進してきたカレアバーナに向き直る。
 「小細工など無しの正面突破か…」
 アルマは何の感慨も込めずに呟く。
 「やらせていただきます」
 イルムが左腕のブレードを振るう。エルディバイラスはそれをブレードで受け止めた。レーザーブレードの粒子がぶつかりあい火花を散らす。ブレードを封じられたエルディバイラスに、カレアバーナが右腕のブレードを叩き付けた。だがエルディバイラスはそれより早くカレアバーナを押し切り、距離を開ける。よろけたカレアバーナに、光が叩き込まれた。ベヒーモスをも貫通したプラズマライフル。
 しかし爆発とともに後ろに吹き飛ばされたカレアバーナだが、まだ健在だった。右腕を失い、コアが削られているものの、カレアバーナは立っている。
 「ちっ、やってくれたな!」
 ルークのカイゲンヴェルクがお返しとばかりにプラズマライフルを放つが、エルディバイラスは再び半歩の動きでそれをかわした。
 「狙いはいいが…正確すぎるな。次弾の予測が容易だ」
 アルマは空中に舞い上がり、カイゲンヴェルクに肉迫する。カイゲンヴェルクはビームガトリングガンを放つが、エルディバイラスの機動力はそれをあっさり回避し、カイゲンヴェルクの懐にもぐりこんだ。そしてそのまま勢いを活かし、カイゲンヴェルクにキックを放つ。
 「なんだとっ…」
 そのまま地面にたたきつけられるカイゲンヴェルク。
 ACでキックを放つなど、常識外れである。そんなことができる者など見たことがなかった。
 「洒落になってねえな…」
 ルークが頭を振りながらうめいた。
 エルディバイラスは2機を見下ろすように、悠然と空中に浮んでいる。
 「だが…まだまだあっ!」
 カイゲンヴェルクが立ち上がり、再び戦闘体勢を取った。



 リールが空中からバズーカを連射する。
 ベーゼンドルファは地面を滑るようにそれらを回避していく。だが、さすがに全てをよけきる事は出来ず、5発に1発は喰らっていた。
 だがガルドはハーディ・ハーディに向かう事が出来ずにいた。ドルーヴァのマッドドッグのせいである。絶え間なく両肩のガトリングによる砲撃を浴びせてくる為、それもしのがなくてはならないからだ。多少の損傷を無視して突っ込もうとすると、残るどちらかによって集中攻撃を受けてしまう。
 「ちっ、鬱陶しい…しつこい女は嫌われるぜ!」
 たまにガルドも反撃でグレネードライフルを放つのだが、軽量級のハーディ・ハーディはそれをあっさり回避していた。
 マッドドッグに攻撃を向けようとすると、ドルーヴァは建物を盾にしようとするのだ。まだ市民の避難も完了していない状況の中、市街地で戦うだけでも問題なのに、建物を破壊するわけにはいかなかった。
 べーゼンドルファは結局反撃に移れず、徐々に装甲を削られていた。



 そして、ビリーは雑賀、そしてグリュックと対峙していた。
 レーザーライフルの連射がグリュックス・ゲッティンを襲うが、シールドに阻まれ思うようにダメージは与えられていない。両肩のツインエネルギーキャノンを使えばいいのだが、敵は2機とも地上にいる。もし回避された場合、流れ弾は間違いなく街を破壊してしまうだろう。幸いなのは、敵も市街地を破壊しないようにしているのか、ガトリングガンやミサイルを使ってこないことであった。
 グリュックス・ゲッティンのスナイパーライフルの弾丸がヴェルフェラプターに浴びせられる。機体を左右に揺らし回避するが、半分は喰らってしまった。しかも、流れ弾により小さな爆発が起こる。
 「ダメだ…回避したら街が壊れる!」
 ユーミルの母が守ろうとした街である。
 傷付ける事は出来なかった。
 哭死がライフルを連射する。ビリーは回避せず、突っ込んだ。
 白兵戦で一気にケリをつけるしかない。
 ライフルの銃弾が直撃し、衝撃が走るが損傷はたいしたことはない。
 「ブレードで一気にケリをつける気だな…」
 グリュックがそう判断し、後退した。彼のACはブレードを装備していないからだ。
 前に出たのは哭死だ。
 「街を壊したくないのは一緒らしいねえ…」
 雑賀が呟く。彼女も、それは同感だった。
 「彼」のような人を生むのは、夢見が悪い。
 「グリュック、援護頼むよっ!」
 「了解だ!」
 グリュックス・ゲッティンが空中に舞い上がり、上空からヴェルフェラプターに精密射撃を放った。狙いはブレードだ。
 次の瞬間、ヴェルフェラプターの左腕が爆発する。ブレードが破壊されたのだ。
 「何っ!」
 そして、白兵戦の出来なくなったヴェルフェラプターに哭死のブレードが炸裂した。
 火花が散り、ヴェルフェラプターが後ろに押される。だが、コアは無傷だった。
 右腕を犠牲にしてブレードを防いだのである。
 そして、至近距離で放たれたツインレーザーキャノンが哭死の両足を吹き飛ばした。
 「ちいっ!」
 両足を失った哭死が後ろに倒れこむ。
 「野郎っ!」
 グリュックがヴェルフェラプターの後ろに降り立ち、膝をついた。振り向くより早くガトリングガンを至近距離から連射する。
 ヴェルフェラプターのブースターが爆発した。
 「くっ…もう飛べない!?」
 旋回して後ろを向くが、既にそこにはグリュックス・ゲッティンの姿はない。
 



 「……みんなこのままじゃやられちゃう……でも……」
 必要なときだけ、出撃しろというガルドの言葉が心に引っかかっていた。
 巫女の戦うべき相手はディソーダー、そして……ナインボールなのだ。
 インフィニティアを使うということは、巫女の命を削る事になる。
 「行くんですか?」
 ガレージに行こうとしたユーミルの背後から、声がかかる。
 そこにいたのは、ルカだった。
 「ルカ?」
 「あなたの戦う時は…今ではないはずですよ?」
 ルカがこんな時でも変わらぬ笑顔で、そう問いかける。
 その笑顔に引っかかるものを感じながらも、ユーミルは答えた。
 「自分の大切な人たちを守れなくて…みんなを守れるはずがないよね」
 それだけを言い残し、ユーミルはガレージのほうに走っていった。
 「……やはり、戦いますか…お優しいですね」
 優しい笑みだった。
 そう、優しい笑み。
 「役者は揃い…後は最終幕…しかし、もう少しだけ待ってあげましょうか。そのほうが面白くなりそうですからね」
 



 ガルドのべーゼンドルファは、膠着状態。
 ビリーのヴェルフェラプターは大破。
 ルークのカイゲンヴェルク、イルムのカレアバーナはエルディバイラスに手も足も出ない。
 戦況は悪かった。
 ハーディ・ハーディのバズーカの弾は切れ、マッドドッグもガトリングが弾切れになっていたが、両者ともまだほとんど無傷である。
 哭死は大破、グリュックス・ゲッティンはスナイパーライフルの弾が切れていた。
 エルディバイラスは無傷である。
 「あのAC…圧倒的に強い…けど!」
 インフィニティアがエルディバイラスに向かう。
 「ユーミル!?馬鹿、なんで出てきた!」
 それに気付いたガルドが叫んだ。
 「何…ユーミル!?」
 ビリーも、大破したヴェルフェラプターの中で驚愕の声をあげる。
 だが、ユーミルの登場に驚いたのは2人だけではなかった。
 エルディバイラスも、驚いたように動きを止める。
 「新手…落ちな!」
 リールがユーミルのインフィニティアに突撃した。
 既にバズーカは弾切れしているため、白兵戦を挑むのだ。
 しかし。
 たった一度の交錯で、ハーディ・ハーディは左腕を切り飛ばされる。
 「な…そんな!?」
 信じられないといった表情のリール。
 ドルーヴァが即座にハンドロケットをインフィニティアに向けるが、それより早くインフィニティアのポジトロンライフルがドルーヴァの右腕を吹き飛ばす。
 「あれが蒼のユーミルか…桁が違いやがる…」
 それを遠巻きに眺めるグリュックが、冷や汗を流した。滅多に無い事だ。
 一瞬で2機のACが戦闘不能にされてしまった。
 「ちょっと!どういうつもり!」
 ユーミルが怒鳴る。
 その鉾先はアルマだった。
 「なんでこんな事するわけ?わたし怒ってるんだよ!」
 「お前は…ユーミル、か?」
 「は?そうだけど…」 
 「……そうだな。まずは、国王に会わせて貰おうか」
 少しした後、アルマの声が響いた。
 「何言ってるの?会わせられる訳無いでしょ!」
 ユーミルがそう怒鳴り返した次の瞬間、
 『よかろう』
 という声が響いた。
 通信だ。国王自らの、である。
 「………え?」
 きょとん、とするユーミル。
 『会おう。戦わずに済むのなら』
 「いいだろう」
 エルディバイラスが着地する。
 「……陛下…」
 ガルドの呟きは、誰にも聞こえる事は無かった。
 
 
 
 
 後書き 第20話「巫女の背負いし蒼の十字架」
 早いものでもう20話。これも皆様のおかげ。感謝感謝。
 なんかタイトルと中身はあんまり関係ないですが気にしないで…
 今回はほとんど戦闘でしたね。戦闘全く無しの最初の頃が懐かしいです。
 次回はまた戦闘無しになりそうだけど…