あれから3日が、何事も無く過ぎた。
 インフィニティア・バスターの修理も終わった。
 あれ以来、ビリーの依頼は無い。
 しかし、ユーミルはこの3日、様子がおかしかった。
 いつもの明るさが無いのだ。
 ユーミルが1人で物思いにふけるなど、ガルドには考えられない事だった。
 そんなある日の事だった。


 第8話「アリーナの2人」


 「ユーミルはいるかい?」
 そう言って尋ねてきた人物がいた。
 言わずもがな、ビリーである。
 「え?ビリー?」
 ユーミルが驚いたように、立ち上がる。
 「どうしたんだい?そんなに驚いて」
 「……」
 「何だか幽霊でもみたような顔をしていたよ」
 苦笑しながら、ビリーはユーミルに歩み寄った。
 「苦労をかけたからね。たまには、骨休めをさせてあげたいと思ったのさ。実は今日、アリーナで僕の試合があるんだが、ぜひ見に来てもらいたいんだ」
 「え?ビリーって、アリーナに出てるの?」
 驚いたというよりも、やっぱりといった表情で、ユーミルが聞き返す。
 「ああ。まあ、暇つぶしだけどね」
 「強いの?」
 「それは、見てのお楽しみさ。来てくれるかい?」
 「おい…」
 答えたのは、ユーミルではなかった。
 「ユーミルは誘って俺は誘わないってのか??」
 いつの間にかビリーの後ろに、ガルドが立っていた。
 「何で君を誘わなくちゃならないんだ?」
 「俺だって働いてるだろうが」
 「じゃ、ガルドとリットも一緒に行こうよ。みんなで行った方が楽しいよ、きっと」
 ユーミルのその一言で、ビリーは少しがっかりしたような顔になる。そしてガルドは勝ち誇ったような表情に―――
 「冗談だよ。俺は今日は別の用事で忙しいんだ。それにお前みたいな青二才の試合見たって、面白くも何ともねえしな」
 ガルドは意外にも、そう言ってさっさと出て行ってしまった。
 「じゃあ行こうか、ユーミル」
 「うん…じゃ、応援してあげるね」


 ビリーの機体は白と黒のカラーリングが施された、軽量2脚ACだった。
 武装はハンドガンとミドルミサイル、ブレードだ。
 機体名はファルノートというらしい。
 「どんな意味なの?」
 ユーミルの問いに、ビリーは笑いながら
 「いや、深い意味は無いんだ。単語を組み合わせて名前を付けるのが嫌いだから」
 と答えた。
 「そろそろ試合が始まる。特等席を用意したから、よく見えるよ」
 「わかった、頑張ってね!」
 いつもの笑顔を取り戻したようだ。
 



 そして試合が始まった。
 ビリーの対戦相手はレイヴン、ライシスの駆る4脚ACシューティングスターだ。
 ユーミルも聞いたことはあった。結構腕はいいらしい。
 「始まったな…できれば彼女の前で無様な所は見せたくないものだ」
 苦笑しながら呟くビリー。
 「よし…行くか!」
 アリーナでの対戦は、仮想空間でどちらかが戦闘不能に陥るまで行われる。
 対戦場所はバトルドーム。障害物は一切ない、真に実力が試されるステージだ。
 ビリーのファルノートがミサイルを放つ。
 シューティングスターは迎撃ミサイルを放ち、それを迎撃した。
 間髪いれず、マルチミサイルで反撃する。
 ビリーはデコイを撒いて、ミサイルを回避した。
 互いにミサイルは無駄だと悟り、双方同時に接近を開始する。
 シューティングスターの武装はマシンガン、マルチミサイル、中型ロケットだ。
 近距離での白兵戦になれば、機体高が低い4脚のシューティングスターの方が、有利である。
 ビリーはそのスピードをいかし、敵の上空を旋回しながらハンドガンを放つ。
 軽量級相手にはハンドガンはその衝撃が非常に有効なのだが、シューティングスターは重装4脚だ。効果は、薄かった。
 残るファルノートの武装は、ブレードだけである。
 「よりによって、彼女が見ているときにこんな敵か…」
 シューティングスターは上空から一方的に攻撃されるのを嫌ったのか、OBで距離を離した。
 今の所、ファルノートがシューティングスターを上回っているのはスピードだけだ。
 火力、装甲は全て敵に分がある。
 残るは、パイロットの技量だけだ。
 シューティングスターがマシンガンを浴びせてくる。
 装甲の薄いファルノートでは、喰らい続けると持たないだろう。
 「まずは、マシンガンを何とかしないとな…」
 あれがある限り、ファルノートに勝機は無い。
 ビリーはOBを起動させた。
 一気に距離がつまる。マシンガンの洗礼を受けるが、この際仕方がない。
 敵の目の前まで突っ込み、ブレードでマシンガンを切り落とす。
 直後、コクピットに衝撃が走る。
 敵のブレード攻撃を受けたのだ。幸い、敵のブレードの出力が大した事は無かった為、致命傷は受けなかったが、それでも結構なダメージを受ける。
 すぐさま機体を立て直し、一度離脱する。直後にロケットが放たれるが、それは回避した。
 「これで、少しは条件が良くなったかな…?」
 


 「こら〜〜〜!!ビリー、何やってんの〜!!」
 特等席では、ユーミルが声を張り上げていた。
 ユーミルをここまで案内してくれた執事の老人も、ぎょっとしている。
 それもそうだろう。
 この特等席に入れるのは、アルマゲイツの社長か副社長、その家族くらいのものだ。
 いわゆるVIPルームである。
 たかだかレイヴンの小娘が入れるような部屋では無い。
 しかも、先程から絶え間なく大声でビリーを呼び捨てにしているではないか。
 いくら有名なレイヴンだろうと、ビリーが彼女を特別扱いしているのは分かった。
 現に彼女の相棒だというもう一人のベテランレイヴンは邪険に扱われているというではないか。
 むしろ、そのほうが普通なのだ。
 客席から歓声が上がる。
 ビリーのファルノートのブレード攻撃がシューティングスターを捕らえたのだ。
 「やった当たった〜!その調子〜!」
 しかもこのはしゃぎ様である。
 まるで子供だ。
 


 ファルノートのブレード攻撃により、試合は互角となった。いや、互角というよりもむしろ、ファルノートが有利になっている。
 シューティングスターは連射武器のマシンガンを失い、ファルノートを捕らえることが出来ないでいた。
 たまに放つロケットは、全く当たらない。
 ファルノートは隙を付いては、シューティングスターに斬撃を浴びせる。
 苦し紛れに放つマルチミサイルも、デコイであっさり回避される。
 そして、何回目かのブレードで、遂にシューティングスターは沈んだ。
 「どうやら、無様な姿は見せないですんだな…」
 


 その後、ユーミルのいる特等席にビリーもやって来た。
 「あ、ビリー!お帰り〜!」
 「あっさり片付けて、いいところを見せようと思ったんだけどね」
 苦笑するビリー。
 「そんな事ないよ〜、かっこよかった〜」
 執事は既にいなくなっている。普段のビリーとの格差に付いて行けず職場放棄したらしい。哀れだ―――
 「そうそう、ビリーって何位くらいなの?」
 「僕かい?僕は、今ので9位になった」
 「え、本当!?じゃあ、次はガルドと対戦だよ!」
 ユーミルの言葉に、驚くビリー。
 「ガルド!?そう言えば…8位はガルドって名前だった気がするな…彼だったのか」
 「知らなかったの?」
 「ああ、気付かなかった」
 それだけ、ビリーのガルドに対する認識がどうでもいいものだということが覗える。
 「?ユーミル、君は何位なんだ?」
 思い出したように、尋ねるビリー。
 「わたし?わたしはね、アリーナやってないんだ」
 ユーミルはあっさりと、そう答えた。
 「何故?君ほどの腕があれば、一位だって夢じゃないだろう」
 ビリーは意外そうに聞き返す。
 「わたし、孤児院の為にレイヴンやってるから。アリーナにはあんまり、興味ないんだ」
 「でも、アリーナで上位になれば、そのぶん知名度も上がって仕事も増えるだろう?」
 「そういう考え方もあるけどさ…でもね、あんまり有名になりすぎても、命狙われたりとかしがらみができたりとか、色々あるってガルドが言ってたし」
 既にかなり有名になっているのだが。
 「そうか…」
 「ビリーはレイヴンじゃないのに、なんでアリーナに出てるの?」
 「ああ、ただの余興だよ。」
 ビリーは当り障りなく、そう答えた。
 本当は、もっといろいろと思惑があるのだが、ユーミルには言いたくなかった。
 アルマゲイツの副社長ともなれば、当然ながら様々な裏があるのだ。
 「さあ、次の試合が始まるよ」
 話題をそらすビリー。
 結局その日は、1日中アリーナで試合を見ていた。
 


 
 後書き
 第8話「アリーナの2人」
 どうやら、戦闘シーンが入るのが当たり前になってきたようです。
 やっとAC小説らしくなってきたかな…
 ビリーの戦闘シーンも書けたし。
 ユーミルやガルドのACが強いせいで、ファルノートが滅茶苦茶弱い気がするけど…
 普通のACなんてこんなもんなんだよねえ…