均衡のとれた幸福感のある世界の秩序を創り出すことを目指して
-ジオ・マトリクスの2人-


〜南の島でも足はお飾り〜


登場人物

リオン・ハインリッヒ
19歳男 勤続年数1年
ジオマトリクス社のエンジニア兼テストパイロットで、ヘレンの恋人。恋人とアニメを心から愛する19歳。
最近缶コーヒーを飲むとき恐怖を感じるようになってきた。

ヘレン・クリストファー
21歳女 勤続年数4年
ジオマトリクス社の技術開発課課長兼現場監督。高校生だと詐称しても問題ないほど童顔だが、結構淫乱だ。
ACの操縦もできることはできるらしい。

ユイ・ヒイロ(緋色 由衣)
18歳女 勤続年数1ヶ月
リオンとヘレンの仲を邪魔しようと目論む暴走新入社員。胸はデカイが性格は悪い。
誤解のないよう言っておくが、ユイが名前でヒイロが名字。


照りつける太陽。

真っ青な空。

パラソルと水着姿のおねーちゃん。

 

そう、僕は海に来ている。
さわやかな気分で僕は幸せを噛みしめていた。
ただひとつ心残りなのは…

僕の立っているのが砂浜でなく、巡洋艦の甲板である、ということだけだろう。

 

今回の仕事は、先日の新フロート脚部パーツの本部研究所への移送。
航行期間以内にジオ・ブレイブの上半身パーツ再生作業を完了するのが僕ら技術者一同の仕事。
しかしこの移送のおかげで、社員旅行はお流れとなった。
もちろん、ジオブレイブ自爆は僕がやったんだから僕のせいである。

それでも心優しい部下・同僚・上司達は、僕を責めたりはせずに笑って「トイレ掃除一週間!」と言うだけで済ませてくれた。

まぁともかく、その余計な業務期間を終えた僕はジオ社の巡洋艦に乗って、
バレーボールの試合と、ひなたぼっこ(違)してる女子社員達を見ていた。
まがりなりにも仕事中だが、旅行がパーになったと言うことで許可は出ている。
旅行先が変更になったと思ってくれればいいだろう。

 

「リオンく〜ん」
「んにゃ?」

振り向くと、谷間が見えた。
失礼、振り向くとヘレンさんが缶を持って立っていた。

「何暇そうにしてんの?ビーチバレーやらない?」
「ビーチじゃないから違います。バトルクルーザーバレーです。」
「何言ってんの…ま、いいわ。ホラこれ。」
彼女はそう言って、缶コーヒーを僕に渡した。
「この気温で白衣なんて着てたら喉乾くでしょ?アイスコーヒー。」
「ど、どうも」
「お礼は夜にしてね。」
そう言うと、ヘレンさんはバトルクルーザーバレー(しつこい)の輪の中に戻った。

カシュッ

景気いい音を立てて、僕はプルタブを開けた缶を傾けると、口から大空に向けてコーンスープを発射した。
わざとやってるような気がしてならないが、わざわざ自販機に細工をするというのも変な話なので疑わなかった。
今度から飲むときには缶の銘柄を確認しよう…(普通はします)

 

「あ、リオン先輩〜ッ!」

ゲッ!

「こんな所で何やってるんですかぁ?一緒に遊びましょう!」
「ユイ〜っ!ちょ、ちょっと、離して!」

彼女の名前はユイ・ヒイロ。
一ヶ月前に入社してきた新入社員で、なんか僕にひっついてくる。
それはそれでいいんだけど側にいるとヘレンさんが怒るので大変だ。
彼女、胸が人一倍あるので、それを押しつけるかのように人の腕をとるもんだから、
男としては鼻の下も少しはのびようってものだ。
しかし、少しでも顔が緩むと危険だ。
この前なんか、某女史の投げたパソコンのキーボードが顔面に直撃してエライ目にあった。

「何で離せなんて言うんですか?さ、あっちで遊びましょう!」
ぎゅ〜。

やめろッ!僕は今、立ち上がれる状態じゃない!ヘルプミー!

ドガッ!

僕は神に感謝した。
後頭部にバレーボールが直撃したためにうつ伏せに倒れることができたからだ。
仰向けで倒れてしまった日にゃあ場所が場所だけに投身自殺してたかもしれない。

「ゴメンねぇリオン君。手がすべっちゃったぁ。」
にこやかに狙撃手、ヘレン登場。
顔面に微笑みを貼り付けたまま力の限り拳を握っている。
そうか、ボールが僕に当たった後に音が聞こえたのは、ヘレンさんが投げたからか。納得。

 

 

納得してる場合じゃないな。

「ヘレン先輩、こんにちわ〜。」
「こんにちわ、ユイちゃん。」
背後に虎と龍を浮かび上がらせたままにこやかに挨拶するのは是非やめていただきたい。

「乱暴ですねぇ。ボールが先輩に当たっちゃったじゃないですか。」
「ゴメンねぇ、手が滑っちゃったの。」
ヘレンさん、それウソ。

狙いを付けてサーブしたようにしか見えませんでしたけど。わざとじゃないですかぁ?」
見てたのか。
「え、そう見えた?」
見えるもなにも、そうです。

「怒りっぽいですねぇ。だからシワが増えるんですよ」
「(ぴしっ)まぁ、経験の浅いガキ…いえ、新人にはそう見えるのも仕方無いわね。」
「(ぴしっ)私と年は大して変わらないじゃないですか。でも、そのくせヘレンさん貧相ですね。」
「(ぴぴしっ)ま、胸だけの身体が自慢の人には無理でしょうね、このバランスの取れた体型は」
「(ぴぴしっ)でも、みんな胸は大きい方がいいって言ってますよぉ。」

「ふん、リオン君は「手のひら×1.5ぐらいが丁度いい」とか言ってたよ!」
「な、なんですってぇ!?ウ、ウソです!」

鬼気迫る表情で振り向く2人。

「ウソですよね、先輩!」
「ホントよね、リオン君!」

 

僕は、既にその場にいなかったのでその後は知らない。


「パスワード『My hand burns crimson, will raise sound as hold a victory and will cry. 』ジオブレイブ、起動しろ」

ヴン…

起動音と共に、ジオブレイブが浮き上がる。
『管制室よりパイロットへ。現時刻より30分間、最終動作確認テストを行う。』
「了解、格納庫直通の第2シャッターから船外へ出ます。」

スッ。

フロート・タイプの特権、極めて静かな移動、そして水上移動。
巡洋艦右サイドのシャッターから出ると、前進・後退・左右旋回・平行移動・ブースト上昇・甲板での着地硬直解除・水上に降りての硬直解除。
一通りの動作をテストすると、巡洋艦の右舷副砲から何かが射出され、水面に落ちて浮いた。

『こちら管制室。今撃ったブイにはターゲットが付いている。そこから破壊してくれ。』
「了解。」
ロックオン・サイトをターゲットに合わせて、トリガーを引く。
エネルギーライフルの銃口からエネルギー弾が放たれ、爆発と共にブイを破壊していく。
「KARASAWAMk−2は問題無し、続いて試作武器オービットキャノンのテストに移る。」
『オービットキャノン?本部からの書類にはそんな武装はないが?』
「こちらの判断で追加した武装です。【他の性能を阻害しない程度であればパーツの追加は認めるが、
それによってトラブルを起こした場合はそれなりに対処させて貰う】と書いてあったはずですが?」
『わかった。では、頼む。』
武装切り替えスイッチを入れて、オービットキャノンに切り替える。
約1秒でフルロック、射出すると問題なくビットはブイを取り囲み、レーザー射撃で的を破壊した。
『ほう…そちらで開発した武器か?』
「はい、開発案は私、設計と製造はヘレン課長です。」

もうひとつ、大きめのブイが海面にあった。
『オーバード・ブーストとブレードのテストだ。接近して、破壊してくれ』
「了解」
中指でレバーの横についてるスイッチを押すと、コア背部の加速装置が展開して推進エネルギーを集束し始め、
少々のインターバルを置いて起動し、ジオブレイブは数倍の速度で前進した。
レーダーを確認しつつ距離が近づくとモニタに目を移し、迫るターゲットに正確にブレードを叩きつけて切り裂いた。
多量の熱で融解し、切断されたターゲットの上の部分が海に落下する。

『よーし、テストは終了だ。艦に戻ってくれ。』
「了解。」
ジオブレイブを前進させ、艦に収容して僕は自分の部屋に戻ることにした。

ジオブレイブのラジエータはほとんど機体冷却に回すように設定してあるのでコクピットの冷却機能は最低限しかない。
炎天下、耐圧のパイロットスーツを着たまま灼熱のコクピットでお仕事。
無料のサウナだと思えば精神的ダメージもまだ軽い。

脱水症状になりかけながらも船内の更衣室で少々温度の低いシャワーを浴びて、シャツとズボンだけの格好で部屋に戻る。

廊下で船窓から外を見ると、既に真っ暗だった。

「あ〜疲れた〜…」
ドタン、とベッドに倒れ込んで天井を見上げる。

もう疲れた…今日は…早く寝よう…

コンコン。
「誰ですか?」

ドアを開けて入ってきたのは、ヘレンさんだった。
「お疲れさま。」
「あ、どうも。」
僕は起きあがって、コーヒーでも入れようと思ったがヘレンさんに制止された。
「疲れてるんでしょ?マッサージしたげる」
「え?あ、そ、そうですか。じゃお願いします」
「了解。じゃ、うつ伏せになって」
「はい」
言われたとおり僕はベッドにうつ伏せに寝転んだ。
上にヘレンさんが乗る。
「よいしょっと」
ごりごり。
「はぁ〜…」
「気持ちいい?」
「はい〜…あ〜…」
「じゃ、次に…」
(省略)
「あ〜、気持ちいい〜…」
「うふふふふふ…じゃあ、ここは?」
気を抜いていた僕はヘレンさんに頃がされて、仰向けの姿勢になった。
「へ?」
「こっちの方もどうかな〜?」
「へ、へへへ、ヘレンさんッ!ちょっと、やめ…」

以下、略。

 

取り敢えず、寝ることは許されなかった。とだけ言っておく。


「おーい、ミーティング開始するぞ。点呼ー。

……
………
ヒイロ。」
「はーい。」
「クリストファー。」
「はい。」
「やけに顔色がいいな…どうかしたか?」
「いえ、別に?」
「そうかい。
ハインリッヒ…おい!どうした!?」
「はい…どうかしました?」
「どうかしましたじゃないって!一日でこんなにやつれる訳無いだろが!医務室行って来い!」

否応なしにミーティングルームを追い出された僕は、一応医務室に向かった。

後でヘレンさんに聞いたところ、ジオ社本社から大型艦の都合がついたため、
この艦はこれより進路変更、明日正午に火星有数のリゾート地【ネオ・コートデパール】に到着、本社の大型艦と合流、ジオ・ブレイブを引き渡して
そのまま我々はそこに数日滞在、期間後に巡洋艦(まぁ元々そんな大それたものではないが)で支部に帰還、通常業務に戻る。
お流れになったはずの旅行が取り返せてみんな喜んでいる、いいことだ。

で、今日の夜は妙にハイなヘレンさんにまた一滴残らずしぼり取られる羽目になったのだった。
助けて。

 

 

後編に続く


カプリッケ:kei-h@f7.dion.ne.jp