均衡のとれた幸福感のある世界の秩序を創り出すことを目指して
-ジオ・マトリクスの2人-
後編


〜何よりあんたが大好きです〜


>登場人物

リオン(18)
ジオマトリクス社のエンジニア兼テストパイロット。仕事熱心だが根暗。根は真面目だがオタク。
ヘレン(21)
ジオマトリクス社の技術開発課課長兼現場監督。年の割には童顔で、子供っぽい仕草が似合う(リオン談)。


チャージング状態から回復まで、このバレーナ製高出力ジェネレータならば約6、7秒。
それを待つほど、相手は甘くないだろうな…
そう思い、僕は機体を滑らせ、建物の隙間を縫うように移動を開始した。
グレネードランチャーの爆風を受けたりもしたが、
目立ったダメージは無いままジェネレーターが復帰したので、攻勢に転じることにした。
機を待ち、盾にしていた建造物の陰から表に躍り出る。

「くらえっ!」

そう叫んで、敵機をロックオンしトリガーを引いた。
今度こそ、銃口から集束されたエネルギーの束が飛んでいく。

鉄が焼き切れる音がしたと思うと、エムロードのACの右肩のエクステンションが吹っ飛んだ。
豪快な音を立てて鉄の床にそれは転がり、光弾を受けた余熱でドロリと溶けた。

ライフルを撃った姿勢からオーバードブーストに移行し、左腕から輝く奔流を出現させ、狙い違わず敵ACの右腕を切り裂いた。

 

『リオン君、敵ACの戦闘力はあとわずか…左腕のブレードだけど、これにあまり大きな出力はないから心配ないわ。
で、グレネードランチャーだけど右肩の無くなった不安定な状態で撃てば大きく体勢を崩すでしょうから、そこを狙って!』
「了解!」

機体を敵機に向けると、右方向から無数の弾丸が迫り、ジオブレイブの右腕の装甲を歪ませた。

「増援か!?」

レーダーを確認すると、確かに東にもう一機の反応。
今の攻撃から察するに、遠距離支援型のACで、レーダーは広範囲のもの、
そして腕には両腕ガトリングガンが装備されているはず。
となると、他の武装は肩の、しかもレーダーを装備している場合は一方の肩だけとなる。
頭部にレーダーがついていることも考えられるが…

考えながら、逃走を開始した破損ACに向けてプラズマライフルを放つ。
爆発が起こり、体勢を崩すも射程外に逃げられた。

 

接近してきたエムロードの増援…
逆関節ACの両腕ガトリングガンが火を噴くが、弾速の遅いそれは悠々と避けることが出来る。
しばらくしてそれに気付いたか、敵も装備を変えた。右肩に装備されているミサイルポッドの蓋が開く。

「この遅さ…ヤバイ、相当な数、ロックしている!」

そう思い、ジオブレイブを移動させ、さらに真横へのオーバードブーストでロック回避を図るが、
移動方向からの火弾にそれは遮られた。

移動しようとした方向には、大地をしっかりと踏みしめて構え、グレネードランチャーを放った敵人間型ACが見えた。
さっき、逃げられたヤツだが…まだ戦うとは見上げた根性だ、と思ったが感心している暇ではない。
前方から、逆関節ACから発射された合計24発のミサイルが飛んできている。
ジオ社製コアにミサイル迎撃機能は無い…よって、ミサイル回避法は
エクステンションの迎撃ミサイルや移動による回避などしかないのだが、ジオブレイブは迎撃ミサイルを装備していなかった。

「くそっ!」

僕はまだジェネレータ電力が回復しきっていないのは分かっていたが、オーバードブーストを発動させた。
あのミサイルの嵐を食らってしまっては、流石の重装甲にも驚異だ。

しかし、回復力があっても容量がこころともないジェネレータでは、大した航続距離も維持できずに、
チャージングを避けるため仕方無く加速を止めた。
真横からミサイルが迫ってくる。

『リオン君、エクス…』
「そうかっ!」

コントロールスティックの脇についているスイッチを入れると、
ジオブレイブの両肩に装備されているエクステンションが作動した。
機体は空中で急速後退し、そのままの移動を予測していたミサイル群は
ジオブレイブの前方を通って通過、実験場の壁を少し破壊して消えた。

バレーナ社の新型エクステンション、バックブースター。
ジオ・ブレイブに試験的に装備されることとなった、急速後退用追加補助ブースターである。

「そうか、コレがあった。ありがとうヘレンさん。」
『お礼は後、今は敵機殲滅!』
「了解!」

オーバードブースト時に少々浮き上がったので、そのまま空中から逆関節に向けてライフルを放つと、
光弾は右のガトリングガンの砲身を削り取って地面に直撃、爆風を巻き起こし逆関節ACを吹っ飛ばした。
続けて人間型ACが放ったグレネードも、右を向いてバックブースターを作動し、真横に移動して避ける。
フロートのためブレーキが利かずに高速で滑り、爆風すら回避できる。
流れるような華麗な動きで無事に着地した。もちろんジェネレーターは空っぽだ。

数秒、ある程度回復したジェネレーターと、反動から立ち直っていない人間型ACを見て、
僕はひとつの決断をした。

「これ…まだ試作段階なんだけどな…」

そう言って、武装変更のスイッチを入れると、静かに僕の自作両肩武器が作動した。
片膝を着いて構えている人間型ACをロックサイトに入れると、尋常ではない速度で3ロックされる。
一瞬迷ったが、うまく作動することを願ってトリガーを引く。
両肩のポッドから、6つの小型機械が射出された。

射出された小型機械はそのまま敵機に突進し、少し上あたりで輪をかいて滞空した。
6つの超小型自律兵器が配置につくと…レーザーの弾幕が敵ACの周りを包んだ。
相手も急いで構えを解除するも、中央にいる機体が全方向からの射撃を全て避けきるのは無理であるし…
なにより、間に合わない。
当然、グレネードを構えたままエムロードの人間型ACは大破した。

 

逆関節ACもこちらに接近してきたので、再び自律兵器…オービットキャノンを射出する。
同時にオーバードブーストを起動、相手に接近してブレードで攻撃を掛けた。
ブレードを避ければレーザーが、レーザーを避ければブレードが…という寸法だ。
ガトリングガンを少々食らいつつもその攻撃は成功し、ACの左半身を切り落とした。

『戦闘能力は微少、今が勝機よ!』
「了解ッ!」

ヘレンさんからの通信をうけ、僕はとどめを刺すべくライフルを構えた。

その時。

 

『全員、動くな!』
管制室に繋がっているスピーカーから金属音。おそらく、拳銃の音だ。

『ジオ社ACパイロットに告ぐ、我々はエムロード社の者である。
直ちに機体の全動作を停止、機体を放棄し、脱出すること。
命令に従わない場合、管制員及び研究員の命の保証はしかねる。』

――――しまった。迂闊だったか…

『リオン君!逃げて!』
『黙れッ!』

ガッ!

聞き慣れた、いつでも聞きたい、透き通った声。
聞き慣れない、聞きたくもない、淀みきったくすんだ声。
何かを殴る音。

「わかった…投降しよう」

ジオ・ブレイブは、電源を落とされて静かに床へと降りた。


「う…ん。」
「気が付きましたか?」

気絶していたヘレンさんはこちらに気付くと、一気に掴みかかってきた。
「リオン君ッ!ジ…ジオブレイブはっ!?」
僕は無言で、今正に研究施設を出ようとしているジオブレイブを指さした。
コクピットには先程のエムロード社の人間が乗っているはずだ。

「どうして…」
「ああしなければ、みんな殺されていたと思う…」
「その判断は正しい、でも…あのパーツは…」
「………」
「みんなの命は助かった…けど!」
「僕は…みんなが無事なことを喜んでますよ。」
「でも…なんで私の命令を聞かなかったのっ!?」
「…ッ!僕は、貴方が好きなんですよっ!
好きな人が死んだら嫌われるよりイヤですよ!だからです!わかりましたか!?」

 

「あ〜あ…」
同僚のひとりが溜息をついた。
彼の見つめる先にはこれからエムロード社の輸送艇と合流するのであろう、ジオブレイブが映っている。
「これで俺等はジオ社にクビ、下手すりゃ本当の首が飛ぶな…あ〜めでたいめでたい、ケッ」
「そうですね、じゃあクラッカーでも鳴らしましょうか。」
僕はポケットから機械を取り出すと、赤いスイッチをカチリと押した。

ジオブレイブのコクピットが火を噴き、上半身だけ見事に吹っ飛んだ。
コックピットは跡形もない。
対照的に、脚部は少しコゲ目がついた程度だ。

 

「皆さん、ボーッとしてないで回収してもらえます?」

僕の言葉と共に、呆気にとられていた勤務員が動き出す。
自分の言葉で人が動くのは変な気分だ。

 

 

 

ここらでひとつ、なにかキメの台詞でも言っておこう。

 

 

 

任務…完了。


『報告書
本日、研究施設にエムロード社のものと思われるACが2機侵入。
試作機に発砲を行ったためやむなく応戦、1機を破壊する。
残り1機は中破、パーツは証拠として確保してある。
管制室にも工作員が潜入しており、スタッフを人質にとり試作機を奪って逃走を図るが、
整備員が個人的に搭載しておいた遠隔操作性自爆装置を
応戦時に搭乗していたテストパイロットが作動させ上半身を爆破、試作機は行動不能。
装置作動時に搭乗していたエムロードの工作員は爆死したと思われる。
新型脚部パーツの損害は極軽微。
             ジオマトリクス第17研究所研究員・リオン』

「…送信。」
ピッ、という音と共に報告書が本社に送られる。
嘘は書いていない…ハズ。

「ふわ〜あ…」
僕は端末の電源を切ると、白衣のままベッドに寝転がる。
社員寮201号室の部屋が僕の部屋だ。
2階のはじっこでしかも隣部屋とは階段を挟んであるので普段あんまり音がしない。
ま…命拾いしたし、みんな無事だし、新パーツも無事だし…問題ない。

疲れてるはずなのに目がさえて眠れず、ゴロゴロ転がっているとドアをノックする音がした。
「はいはい?」
ドアを開けると、同じく白衣を着たままのヘレンさんが立っていた。
いつになく、暗い。
「どうしました?」
「遅い時間にごめん、でもちょっと…」
「ま、どうぞどうぞ。僕も眠れなかったし」



こぽぽぽぽぽぽ…
「ヘレンさん、砂糖はいくつでしたっけ?」
「5つ」
そういえば、甘党なんだった…

「はい」
「ありがと。」
ヘレンさんは僕の入れたコーヒーを啜ると、この部屋に来てはじめて笑ってくれた。
「何の用ですか?」
そう聞くと、また俯いてしまった。
「あ、あの…昼間のことなんだけど…」
「昼間?」
「うん、私が目を覚ました時。」
「はい。」
「『なんで命令をきかなかったの』って私が言ったとき、リオン君なんて言った?」
ああ、あの事か…
「…もう一回言わなきゃダメですか?」
「うん」

「僕は貴方が好きなんですよ。好きな人が死んだら嫌われるよりイヤですよ、だからです。わかりましたか?」
あの時とは調子こそ違っても一言一句違わないはず。
「…私、どうかしてたのかなぁ…」
「なんでです?」
「みんなより、パーツの事を心配してたかもしれない。」
「…あなたがパーツのことだけ心配してたんなら、こんな事僕に言いませんよ。」
「そうかな…?」

「それより…返事聞かせてもらえませんか?」
「…もう一回、普通に言って」
…おい。
「え〜と、僕はあなたが好きです。あなたが僕をどう思ってるか教えて下さい。」
ザ・棒読み。
いや、最上級で棒読ミェスト。

でもヘレンさんは、真面目に返事をしてくれた。
「…私は、あなたが好きです。」
顔、真っ赤だ。
年上のはずなのに、なんか中学生に言われてるみたいで照れくさい。
本人に言ったら怒るだろうか。

「じゃあ、さ…」
「何です?」
僕の反射神経が鈍いのかどうかは知らないが、気が付くとヘレンさんの唇が僕の唇に当たってた。
「ふむー!?」
「………」
僕はベッドに座ってたのでそのまま押し倒される。

普通、立場が逆だろ…と思いながら、僕は彼女の白衣の裾に手をかけた。

 

 

 

(前略)彼女のお世辞にも大きいとは言えない胸(略)桜色の(略)すると、甘い(略)僕は背中にまわって手を(略)
そこは濡(略)それを指の腹で転が(略)「はぁ…」
(中略)
頷いたのを了承と(略)「うわ、キツイ…」(略)
やっと半分(略)「痛いよぉ…」(略)赤い血(略)絶(略)(略)(略)(略)
(後略)

 

 

 


─1週間後―

「リオンく〜ん」
「はい?」
振り向くと同時に、後ろから抱きつかれた。
彼女のたいして大きくもない胸が背中に当たる。(口に出したら殺される)
「な、なんです?」
「コーヒー、奢ってあげるよ」
「へ?」
「あの日の、お返し」
…ああ、あの時のコーヒーか。
「コレだよね?」
ピッ、ゴトッ。
「ありがとう。」
「いいよ。じゃあ、私残りの仕事あるから、じゃ!」
そう言うと、ヘレンさんはブンブンと手を振って去っていった。

僕は微笑みながら、缶の蓋を開けて中の液体を喉に流し込む。





もちろん、コーンスープである。



ToBeContinued...


あとがきもどき

まず、ごめんなさい
そして、to be continued、って書いてあるのは続きがあるからです。
書いていいのなら書きます。
あと、(略)の部分が知りたい人は私宛にメール下さい。
完全版を差し上げるような上げないような気がしないでもないと存じておきましょう、恐らく多分。
では。
                             カプリッケ:kei-h@f7.dion.ne.jp