1 ジオスレイ島へようこそ
絶海の孤島、ジオスレイ島――
ジオスレイ島はたいへん大きな島で、APOがみんなしてせいいっぱい離ればなれに暮らしたとしても、ひとりあたりのせんゆうめんせきが十万平方モケモケになるくらいの広さがあります。おまけに山があり、森があり、河があり、砂浜があり、崖があり、毒沼があり、マグマがあり、落とし穴があり、かずかずのAPOの屍があります。観光するにはもってこいの楽園ですので、どうぞみなさんおこしください。
ジオスレイ島の住人は、APOと言います。APOは「あぽ」と発音します。よく、まるを消して「あほ」にしてしまう人がいますが、やめてください。そういうことをすると傷つきます。
APOはちょうど、あのボンボヤ山と同じような、きれいな三角形をしています。体は全体的に黄色がかっていて、ちょっぴりものがなしい夕焼けの空を思い起こさせます。そして、体のまんなかに、大きな黒い二つの目がついています。目は左のほうが大きくて、右の方はその半分くらいの大きさしかありません。女の子に見つめられると、よく(左右の瞳の大きさがちがうのね)と言われます。そんなとき、APOのあいだでは(この左の目は過去をみてるんだ)と答えるのが礼儀となっています。また、APOには二本の腕と二本の足もあります。でも、都合によって腕は生えたり引っ込んだり膨らんだりできるようです。こんな生態をもっている生物はジオスレイ島にしかいませんので、島の名前を取って、これを「ジオの隠し腕」と呼びます。
そしてAPOは、ママの木さまから生まれます。ママの木さまは、島の真ん中にあって、赤い葉っぱを付けているとても大きな木です。普段はママの木さまはただ風にそよそよ揺れているだけですが、APOが死ぬと、代わりのAPOを「にゅいーん、ぽん」と生み出します。
APOたちは、そんな島で、毎日楽しく暮らしていました。
ある日のことでした。海岸ミッドナイトを爆走していた一人のAPOが、海岸にへんなものがうち寄せられているのに気付きました。そのAPOは最近ちょっと人生が嫌になって、不良を気取ることに逃避して、安物の連帯感に溺れていたのですが、そのへんなものを見ると、ひょっとしたら島の一大事かもしれない、これはほうっておけないぞ! と思い立ち、頭にくっつけていたモヒカンヘアをかなぐり捨てました。
(おうい、みんな、たいへんだ!)
APOは大声で叫びました。ちなみに、その声は音で言うなら「ヨー」とか「イァッ」とか「エイヨー」としか聞こえませんので、同時通訳でお送りしております。
さて、声に呼ばれて島中のAPOたちが集まってきました。APOは、島中に10ミソカッツくらい住んでいます。ちなみに、1ミソカッツがクォークに換算すると6.02×10の23乗個分にあたるという説もあります。しかし、グルーオンによる結合についても考慮しなければならないので、正確な数値は定かではありません。
ともかく、集まったAPOのうち一人が言いました。
(どうしたんだい)
(たいへんなんだ。これをみてくれ)
元ヤンのAPOは、うち寄せられていたへんなものをゆびさしました。APOたちはそれを見ると大騒ぎです。なにしろ、こんなものは今まで見たことがありません。
(なんだ、これは、食べられるのか)
(いや、食べてもおいしくなさそうだ。ほら、こんなにも固い)
(まてまて。こっちは柔らかいぞ。でも食べるのは難しい。噛んでも伸びるばっかりでかみ切れない)
APOたちのうち三人が、その伸びる部分を伸ばして遊び始めました。ぐんぐん伸びます。そんなとき、別のAPOが、固くてかみ切れない部分をちょっと触りました。そうすると、棒のようなものががくんと動き、
(うわーっ!)
いきなり伸びていた部分が縮んで、その衝撃でAPOたちがはるか海の彼方へ飛ばされてしまいました。固くてかみ切れない部分を触っていたAPOは、やっべえおれやっちゃったかも、と思いました。そこで、
(APOぞう、APOすけ、APOみー!)
と、わざとらしく三人の名前を呼んで号泣するふりをしました。名前を呼ばれた三人は、海でひとしきり藻掻いたあと、肺に流れ込む海水の冷たさに胸を貫かれながら、海の藻屑となりました。
(なんてこった、いいやつらだったのにー!)
APOのうちのひとりが、がっくりと砂浜に手を突いて悲しみましたが、
(まあ気にするなよ。明日になれば代わりが生まれるさ)
(それも、そうだね)
あっさりと立ち直りました。APOたちは細かいことを気にしないタチなのです。
(ほっほっほ、あたらしい道具に手を焼いておるようじゃな)
そこへ、白いヒゲを生やしたAPOが現れました。そのAPOは、ジオスレイ島の長老さまでした。長老さまは島で一番長生きなので、色んな事を知っています。APOたちは、長老さまがじっくりその新しい道具を見て回るのを、どきどきしながら待っていました。やがて長老さまはえほんとせき払いをすると、APOたちに言いました。
(これは、ゴムゴムバビューンというものじゃ!)
APOたちはなんのこっちゃと頭を捻りましたが、一人だけ急に顔が劇画調になって、
(ゴムゴムバビューンだと!)
(知っているのかAPOでん!)
(うむ……中国の秦の時代、始皇(中略)明書房刊)
(では、わしが実際に使い方をみせてやろう)
劇画調のAPOに説明する役をとられて、ちょっと不機嫌になった長老さまは、面目を取り戻そうと、みずからゴムゴムバビューンの上に乗りました。
(木の枠から、こうしてゴムが垂れ下がっておる。このゴムの上に乗る。そして思いっきり引っ張って伸ばして、ここのでっぱりに引っかける。こうしてからそっちの棒を倒すと)
(これですね)
(うわっおいちょっまっわーーー!)
長老さまはゴムゴムバビューンに飛ばされてお空の星になりました。おそらく第一宇宙速度を突破したものと思われます。通常ならこの程度の加速で第一宇宙速度には達しないのですが、ここが赤道にほどちかい南海の楽園ジオスレイ島であったために、地球の遠心力がたいへん大きく働いたので、普通よりも少ない加速で第一宇宙速度に到達できたのでした。そして長老さまは死のうと思っても死ねないので、考えることをやめました。
APOたちはきらりと光ってきえてしまった長老さまを見送ると、わいわいと会議を始めました。
(長老さま死んじゃったね。どうしよう)
(まあ気にするなよ。明日になれば代わりが生まれるさ)
(それも、そうだね)
(じゃ新しい長老さまを決めよっか。一番年上なのだれだっけ?)
(おまえだろ?)
(そうだっけ。んじゃ、ぼく長老さまとりー)
と、嬉しそうに手を挙げたAPOのくちもとに、白いヒゲがはえてきました。
こうして、その日は何事もなく過ぎていきました。