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2013年03月10日

 ■ 「戦うことでしか」

「戦うことでしか」

 私は小説を書いているし、彼は漫画を読んでいる。
 文芸部の部室は三階までしかない校舎の上にちょこんと突きだした、二部屋しかない四階の片方にあった。通称を“離れ小島”と呼ばれるその部屋は、本棚で乱暴に三分割されていて、それぞれが新聞部室、文芸部室、生徒会室として機能している。当然ながらこの三者は普段から交流が深く、なしくずしにお互いの手伝いに駆り出されることも多く、ほとんど一個の組織みたいになってしまっていた。それが証拠に、生徒会役員の半数は、文芸部員と新聞部員で構成されていたりするのである。
 夕暮れになると、周囲に遮るもののないこの部屋には、きつい西日が差し込んでくる。朱く染まる丘と街並み、その中をうねる二級河川と旧街道――すてきな眺め。私のいちばん好きな時間。
 この一年半、毎日のように彼と共有してきた時間。
 私は夕日を横顔に浴びながら、机の上で嵐のようにキーをパンチしている。真っ黒な古いラップトップは、今日も軽快にキーをパチパチ言わせている。日焼けした液晶に文字は泉のように湧きだし、止まることのない言語の洪水に私は溺れた。
 こんなことしてる場合じゃないのに。
 ほんとはこんなことどうでもいいのに。
 私が背にしている本棚の向こう、生徒会室には、ちょうど私と背中合わせになった彼がいる。パイプ椅子にだらしなく腰掛け、会議机に脚を投げ出して、内履きスリッパをぷらぷらさせながら、漫画の単行本を読みふけっているのだ。部屋に入ってきて、手前の文芸部室で備え付けのラップトップを立ち上げた私に、気付かなかったはずもないのに。
 一体いつから、こんなことになってしまったんだろう。
 同じ部に入った同級生として、彼と出会って。
 部誌の編集作業で泣きそうになってるとき、彼は何も言わずにいくらでも手伝ってくれて。
 顔中脂汗だらけにして告白した私に、彼もまた、緊張の汗を垂らしながらうなずいてくれて。
 つきあうって事がどういう事なのか、お互い全然知りもしなくて、とりあえずデートとかすべきかな、ということで映画に行って。一緒にアニメ映画見てるとき、ふたりとも緊張しすぎでお腹壊して。
 結局、部室で小説書いてるのがいちばん楽しいよね、ってことに落ち着いて。
 それからは、ちょっとだけ、自然につきあえるようになった気がして。
 あの日、秋口の夕焼けを浴びながら、身を寄せ、初めてのキスをした――

 なのに今、私は小説を書いているし、彼は漫画を読んでいる。

 私は、ラップトップを閉じて立ち上がった。
 部室備え付けのラップトップは二台ある。右手に私の愛用のパナソニック。左手に彼がよく使ってたシャープ。重たい精密機械をそれぞれぶら下げ、私はふらつきながらも生徒会室に侵入した。仁王立ちする私を認め、彼が思わず腰を浮かす。その拍子に手にした漫画を取り落とす。
 それを拾い上げる事さえ許さず、私は会議机に叩きつけるようにして彼の前にシャープを設置した。
「……なんだよ」
「書いて」
「はあ?」
 私は、シャープの隣に自分のパナソニックを反対向きに配置して、パイプ椅子を引っぱってきた。数十㎝の距離を取り、私と彼は、一つの長机に向かい合ったのだ。液晶を開く。日焼けした液晶が文字を出力する。
「勝負。どっちが、いい作品を書けるか」
「なんで」
「なんでも」
 しばらく考え、彼は言った。笑いながら。
「俺に勝てると思ってるのか」
「あたりまえ」
「いいさ。受けて立ってやる!」

THE END.

お題:勇敢な小説練習 必須要素:漫画 制限時間:30分

投稿者 darkcrow : 2013年03月10日 01:03

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