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2012年11月26日

 ■ ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 感想(ネタバレ有)

 というわけで、ヱヴァQの感想です!

 なんといいますか、もうありとあらゆる意味で凄くって、手に汗どころか見終わった時には全身汗。口の中がカラカラに渇き、手足に軽く痙攣がきててうまく歩けない状況。俺は丸一日集中して小説書いたりすると、憔悴してこんな状態になるのですが、2時間の映画を見ただけでコレが起きたのは初めての経験です。一体どれほど真剣に映画を見ていたのか――そして、一体どれほどのものを俺に突きつけてきた映画であったのか――
 見終わった後、1時間近くも、ベンチでただひたすら、茫然と休憩とった後、ようやく気を取り直して帰路に就いたのですが……車で僅か10分の距離で、二、三回事故りそうになりました。あぶねー!

 そんなわけで、ネタバレ感想です。ここから先の内容を閲覧する場合は自己責任でお願いいたします。

 まず。
 耳にしていた噂では、新作から入ったファンが「ポカーン!」状態であり、旧作ファンが「俺たちのエヴァが帰ってきた!」状態であったとか。つまり、またあの、内省内省また内省の、戦う病人アニメこと新世紀エヴァンゲリオンに逆戻りしてしまったのか? 序、破で展開してきた熱血ロボットアニメの流れはぶっこわれてしまったのか? そんな危惧を抱きながら見に行ったわけなのですが。

 結論から言えば、そのような意見は全く的はずれだと思います。
 これは明らかに、完結編で「爆発」させるための「溜め」だ。

 見ていて真っ先に思い出したのは、島本和彦作「燃えよペン」の巻末オマケ漫画にあった、「熱血マンガテクニック講座」の1頁。

(引用)
Lesson6 火は燃えすぎたら消せ!!
 熱血マンガの主人公は強い敵にぶつかるときはうまく熱血するのだが、
 宿敵に勝ってしまったり、
 あまり連続で戦ってばかりいすぎると、熱血に慣れてきてわけがわからなくなる。
 そういうときは一回水をぶっかけろ!!
(ザバシャアン!)
「おれが悪かった!
 おれがまちがっていた!!
 おれをさげすんでくれっ!
 おれは、おれははずかしい。」
 これである程度冷えてきたと思ったらまた火をつけてやる。
(ボウッ)
「おれも悪いがあいつはもっと許せんのだ!!」
 こうやってまた熱くなりすぎたら水だ!!
(引用終わり)

 かつて、シンジくんは序・破において着実に成長し、「自分のやりたいこと=綾波を助けること」を思い定め、心を燃やしてそれに取り組みました。その結果初号機はあんなことになってしまい、これぞまさに「わけがわからなくなった」状態です。
 こうして一度テンションは頂点を極め、次は最終決戦に向かわなければならないわけですが……マックスまでテンションが高まったままだと、あとは戦闘以外にやることがなくなってしまう。ドラマ的にもうひと盛り上げ入れるなら、一旦テンションを下げなければならない。

 原作において、テンションを下げる要素とは、アスカの脱落であり、レイの脱落であり、零号機の自爆によって失われた第三新東京市であり、散り散りになってしまった友人たちでした。
 その果てに、シンジくんに救いの手を差し伸べる人物として、カヲルくんが登場する。これをきっかけにシンジくんは立ち直り、いよいよ最終決戦へ臨む……(はずだったが、そうかっこよく事が運ばなかった、というのが前作の結末への道)

 それが新劇場版では、より強烈な形に変化しています。脱落したのはアスカでもレイでもなく、シンジくん自身。彼が眠っていた14年の間に(少なくともシンジ君の主観においては)これまでの絆が突如として理不尽に断たれてしまった。滅びたのは第三新東京市どころか、世界全て。トウジも、ケンスケも、委員長もそこにはいない。そして何より、それをやってしまったのは、この世界を荒野に変えてしまったのは、他でもない自分自身の暴走。
 そして登場するカヲルくん……原作よりも丁寧に手順を踏み、納得のいく流れの元に友情を育むふたり。漫画版のようなちょっと鼻につく男でもなく、原作のような単にホモホモしいだけの男でもなく、確かにそこには優しく頼れる友人の姿がありました。
 だが、ようやく立ち直りかけたシンジくんを待っていたのは、自分の心の弱さゆえに「再びやらかしてしまった大失敗」。そして、その代償として「再び失ってしまった絆」。その心中、察するに余りあります。立つことすら自力でできないほど憔悴したとして、それを誰に責められるでしょうか?
 だからこそ、アスカも口では「あたしは助けてくれないんだ?」と毒づきながらも、ちゃっかりしっかりシンジくんを助け起こし、面倒を見ているのです。

 しかし……
 シンジ君は立ったのです。ラストシーン、丘の向こうへ消えていく三つの足跡。あれほど弱り切っていても、彼が自分の足で歩いている証拠。旧劇場版の、歩くことさえできないまま、ひきずられ、エレベーターに押し込まれ、たどり着いた先でも座り込むばかりで、「しょうがないじゃないか」と言い訳ばかりして、ついにはお母さんに叱られてしまったシンジくんとは違う。
 この新たなシンジくんには、絶望の底から立ち上がる強さがあるのだ。
 ならば、これの絶望が最終決戦を盛り上げるための布石でなくて、一体なんだというのだ。

 そんなわけで、俺は全然これまでの流れに反しているとは思いませんし、鬱々としたエヴァに戻ってしまったとも思いません。エヴァはきっと、前へ進んでいます。

 さっきもちょっと触れましたが、登場人物たちがみんな、シンジくんへの思いやりに溢れているのも、きっと原作と印象が違うところなのでしょう。アスカは元気よく飛び回り、なんだかんだでシンジくんに気を揉んでいますし、マリさんはここぞという時のキレのあるお説教係。ミサトさんがシンジくんに状況を説明しなかったのは彼の心境をおもんぱかってでしょうし、だからこそ一見冷たく見えて、結局シンジ君を殺すことができなかったし……リツコさんはそんなミサトさんを理解して、フォローしている。原作ではろくに絡みの無かった冬月先生が大人の「責任」を果たし、そしてカヲルくんは心からシンジくんを救おうとしていた。
 結果として今回上手く行かなかったとしても、そうした周りの人々の気持ちがシンジ君を少しずつ変えて行っている。俺にはそう思えます。

 完結編たる「シン・エヴァンゲリオン」がどんな展開になるかは全く予想が付きませんが、ただ一つ言えるのは、それが楽しみでならないということです。多分次も2年くらい後になるのでしょうが、とりあえずその時まで頑張って生きていきたいな! そんなふうに思える作品でありました。


*なお、不満点が無いわけではないです。たとえば、槍を目の前にしたときのシンジくんの行動は、もう少しうまく演出できなかったものかな、と思います。なんていうか、ほら、あれだと急にシンジくんが話きかない人になったっぽく見えませんか? あれはそれだけ追いつめられて、目の前にぶら下げられた餌に飛びついてしまったんだ、ということだとは思いますが、正直ちょっと違和感がありました。
*映像的には冒頭の宇宙戦が凄すぎました……あれは、あれは、すげえ。もう手に汗握りまくり。映画館で、もう少しで叫びそうになっちゃいました。初号機がビーム発射したあたりで。

投稿者 darkcrow : 2012年11月26日 02:31

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