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2012年06月08日

 ■ ARMORED CORE V -形骸- (9)

      9

「ワン・トゥ、ワン・トゥトゥッ」
 主任はご機嫌だ。
「所長さんのパーリィは牢ン中っ。囚人バンドが大喚きっ」
 陽気な古代の歌を口ずさみながら、その手は淀みなく基準違反武装オーヴァード・ウェポンをセットアップしていく。あれがどれほどの武器かを知る者は一人としてあるまい。このマッシロナセカイホール・ニュウ・ワールドを生きる後胤アナザァエイジたちの中には。
 かつて朱鷺アイビス分離パージを試みたとき、彼/彼女/それ/あれの尖兵たる白きACが用いた大砲だ。
「主任……。どこへ行ったのですか、主任……」
「はぁ~いっ。こっこだよぉ~ん、キャッロりぃ~ん」
 高精密市庁舎は、全長300mに及ぶ巨大な集積回路の集合体だ。その演算能力は、市長を騙すためのいくつかの虚偽記載ダミーパラメータを含むとはいえ、カタログスペック上では共食いインターネサインの端末一つ分にすら匹敵する。
 そして、実際に共食いわたしの端末として十全に機能しているのだ。
 故に、主任の位置と意図ははっきりと認識できた。市庁舎の塔の中程、大きく張り出した足場の上でACに片膝をつかせ、大砲に電力をチャージさせながら、狙いを定めるのはシティの第二居住区。
「何をなさるのです……」
「あ、ごっめーんっ、言ってなかったっけ……。第二居住区セカンドの7番から13番ブロック、吹っ飛ばすからっ」
「困った方ですね」
 キャロル・ドーリィは溜息交じりに言う。
「そういうことは、きちんと報告していただかないと」
「いっやあ、うっかりうっかり。なんかね、そのへんに分離パージ組が住んでんのよ、5人ばかし。めんどくさいから街ごとぶっ殺そうと思ってさぁ。俺は面倒が嫌いなんだ。てねっ。ナハハハハっ」
「その区画には、他にシティ住民が9000人ほど住んでいますが……」
「へぇー、そうなんだ。さっすがキャロりん、物知りぃ」
 ACの頭をリズムに乗せて上下させながら、
「で、それが何か問題……」
「いえ、別段。電力、そちらに回しますね」
「やったあ。ありがと。できる女。愛してるっ。今度デートしない……」
「一度脳みその分解掃除をされたほうがよろしいかと。それでは、また」
 今度は主任が溜息を吐く番だ。溜息――彼/彼女には必要のない行動、呼吸。後胤アナザァエイジたちはそんなことをしない。彼らは彼らとして新たな文化、コミュニケーションの形式を形作った。しかし彼/彼女/あれ/それ/わたしは、こんな小さな習慣についてさえ、今なお在りし日の幻想から逃れられない。
 ならば我々は老害以外の何物でもないのではないか。
「ちぇっ、つれないの。曲変えよっと」
 ぶつくさ言って、主任は音楽を切り替える。今度はさっきの曲より数百年下って、第一層時代に流行った歌。
「アァイムシンカァ、トゥ・トゥ、トゥ・トゥトゥ。電力満タンまでもう少しぃ」
 主任のカメラアイが音を立てて収束する。長距離射撃モード。ACが持つ機能の全てを測量と射線軸合わせに注ぎ込む。
 それは、油断だ。
 そして彼は、ずっとその瞬間を狙っていた。

 稲妻。
 連続壁蹴りドライヴ。ビルの谷間、防壁、市庁舎、砕け、姿は目視不可能。黄色い何かが怒濤のように高精密市庁舎を駆け上り、一秒半で主任の背後に躍り出る。
「くたばれ糞野郎ォッ」
 ベイズの放った榴弾が、主任の背中に炸裂した。

投稿者 darkcrow : 2012年06月08日 21:37

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