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2012年05月28日

 ■ ARMORED CORE V -形骸- (3)

      3

凝り性アーティスト
 と訳知りユーティライネンに言われたのは、きっと最大級の賛辞だったに違いない。
「トリッガァに聞いたよ。なんか、掘り当てたって……」
「それがどうしていけないのさ」
「褒めてるのよ。無知、無謀、無謬。とびっきりの不運とどうしようもない幸運。私んとこに持ってきたのは大正解」
 彼女の店は繁盛している。ぼくらと話す間にも、レジスタァには買い物客が行列を作っていく。彼らはユーティライネン超弩級商店ウルトラマーケットの固定客であり、とどのつまり間接的なぼくらの客でもある。この店に陳列されてる食料品やら修理部品やらは、先週あたりにぼくらが掘り出したものだ。
「発掘無しに世の中は成り立たない。故にRa:VENも企業コープスも躍起になって奪い合うのね」
 訳知りのマシンアームがキィを叩くと、レジスタァがチンと啼いた。客はたっぷり一週間分の量子連結素子ネクサスを抱えて去っていく。
「でも、中にゃあとんだ爆弾もあらぁ」
「爆弾……」
「文化的爆弾。技術的爆弾。情報的爆弾。ブゥゥゥム」
「ベイズ、あんた、まだ酔ってるのかい……」
 このところ何かから逃避するように酔いどれているベイズに、ぼくはほとほと困り果てている。仕事に出れば掘削機をひっくり返す。家に帰ればホーヴァのエンジンを吹っ飛ばす。真面目な話はことごとく茶化す、だ。
 行列が一通り片付いた辺りで、唐突にユーティライネンはレジスタァをひっくりかえし、その裏側のスイッチを押し込んだ。
「なに……」
「防諜アーマー。K粒子。不可視の物理的/電磁気的防壁」
「なんかおおごとみたいだね」
「おおごとは音もなく忍び寄ってくる。虎みたいなもんよ。だから恐ろしい。なのに分かってないのね、首もとまで牙が来てるってるのに」
 彼女が本気だと知って、ぼくの背筋には悪寒が走るようだった。変わらないのはベイズの浮かれた声だけだ。彼は知っていたのだろうか。あの黒いACもどきが、どれほどヤバい物であるか。
 ユーティライネンは規格外ディソーダーの高圧縮微細演算子を差し出し、
「あなたたちは物を手放す。私は金を手放す。それでおしまい、何も無し。物無し、後腐れ無し、記憶無しよ。つまり他言は厳禁ということ。いい……」
 ぼくは怯えたように肯定のジェスチャァを送るしかなかった。

 づっつつつっっっつつっっつつつつつつっつつっっっっっつつつっつっっっつ。
 そこ/ここは四六時中そんな感じだ。彼/彼女/それ/あれはうんざりしながら永遠の怠惰を生きている。結婚は人生の墓場。有頂天は転落の門。何しろ随分長くここにいるものだから、どれほど最初熱狂したかも忘れて、3万回以上も見返した映画をまた見るように生きるしかなくなる。
「キャッロりぃ~ん」
 彼/彼女/それはACの精細三点測量カメラを覗き込みながら相棒を呼んだ。
「はい、主任」
「大ニュース大ニュースっ。見つけちゃったよボクちん」
「例のAD世紀の……」
「ところが、それだけじゃないんだなぁ」
 彼/彼女/それに笑うという感情はない/ないはず/ないかもしれない。長い時を経て、どうしようもない退屈の果てに、ひょっとしたらあれもまた変わっていくのかもしれない。そう思えたきっかけ、彼/彼女/それが発見したのは、そういうものだ。
「訳知り顔の亡霊ファンタズマさぁ」
 づっつっっつつっつっつつつっっっっっつっっっつつつっつつっっつつつっつ。

投稿者 darkcrow : 2012年05月28日 02:59

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